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Story

『ストーンズ オレ!オレ!オレ! ア・トリップ・アクロス・ラテン・アメリカ』
『ストーンズ オレ!オレ!オレ! ア・トリップ・アクロス・ラテン・アメリカ』
原題|The Rolling Stones Olé Olé Olé!: A Trip Across Latin America
2016年/105分/16:9/BD/2ch/日本語字幕
『ハバナ・ムーン ストーンズ・ライヴ・イン・キューバ2016』
『ハバナ・ムーン ストーンズ・ライヴ・イン・キューバ2016』
原題|‘HAVANA MOON’ – The Rolling Stones Live in Cuba
2016年/110分/16:9/BD/2ch/日本語字幕

ザ・ローリング・ストーンズ、ブルースへ回帰したニュー・アルバムを発表。

『ブルー&ロンサム』

『ブルー&ロンサム』12月2日発売。日本盤も同時発売。構想50年、制作日数3日。

 

2016年12月2日にザ・ローリング・ストーンズは11年振りとなるスタジオ・アルバム『ブルー&ロンサム』をリリースする。たった3日間でロンドンでレコーディングされた『ブルー&ロンサム』はザ・ローリング・ストーンズのハート&ソウルでもあるブルースというルーツそして情熱に回帰している。『ブルー&ロンサム』は複数のフォーマットで12月2日にリリースされる。ドン・ウォズ/グリマー・ツインズプロデュース。

このアルバムはパブやクラブで演奏していた若かりしストーンズがブルース・バンドとしてキャリアをスタートしたリッチモンドやイール・パイ島から目と鼻の先にあるロンドン西部のブリティッシュ・グローヴ・スタジオズで昨年の12月にたった3日間という短い期間でレコーディングされた。彼らのアルバムへのアプローチは衝動的でスタジオではオーバーダブなしで生演奏された。バンドのミック・ジャガー(ヴォーカル&ハープ)、キース・リチャーズ(ギター)、チャーリー・ワッツ(ドラムス)そしてロニー・ウッド(ギター)に長年ツアーでサイドメンを務めていたダリル・ジョーンズ(ベース)、チャック・リーヴェル(キーボード)、マット・クリフォード(キーボード)が加わりさらに2曲には偶然にも隣のスタジオでアルバムをレコーディングしていた旧友のエリック・クラプトンが参加した。

『ブルー&ロンサム』でザ・ローリング・ストーンズはこのアルバムにも収録されているジミー・リード、ウィリー・ディクソン、エディ・テイラー、リトル・ウォルター、ハウリン・ウルフの音楽を演奏していた若かりしブルース・バンドだった時代へ敬意を表している。

 

ザ・ローリング・ストーンズ『ブルー&ロンサム』(ユニバーサル ミュージック)

『ストーンズ オレ!オレ!オレ! ア・トリップ・アクロス・ラテン・アメリカ』

『ストーンズ オレ!オレ!オレ! ア・トリップ・アクロス・ラテン・アメリカ』

原題|The Rolling Stones Olé Olé Olé!: A Trip Across Latin America

『ストーンズ オレ!オレ!オレ! ア・トリップ・アクロス・ラテン・アメリカ』

2016年/105分/16:9/BD/2ch/日本語字幕

  • 収録楽曲
  • 「サティスファクション」
  • 「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」
  • 「ワイルド・ホース」
  • 「ホンキー・トンク・ウィメン」
  • 「悪魔を憐れむ歌」
  • 「黒くぬれ」
  • 「ミス・ユー」ほか

文=寺田正典

  本作は、当然ながら単なるオマケの中南米ツアー・ドキュメントというような軽い作品ではない。ストーンズがラテン・アメリカを回る際の熱狂ぶりのスゴさについては、以前の映像作『ザ・ビッゲスト・バン』(2007年)でも結構見ることができた。しかし、今回のドキュメント作品はそこでのミニ・ドキュメントとは全くレヴェルの違う深みと完成度を持った、まさしく「作品」として仕上げられていて、正直驚いた。

 

『ストーンズ オレ!オレ!オレ! ア・トリップ・アクロス・ラテン・アメリカ』のひとこま

  しばしば「ラテン系だから」と一言で片づけられてしまいそうな話の背景にある、かつて軍政の下にあったり、キューバのように社会主義体制下(同じ社会主義体制で、米国と断交していた時代が長かったとはいえキューバを北朝鮮のような閉鎖的な国と考えるわけにはいかないが…)での、若者文化の抑圧とそれへの抵抗と「自由」を求める闘争、その象徴的な「武器」としての音楽(ロックンロールに限らず、伝統音楽が持っていた同様の意味性を見出しているのが興味深い)という構図を明らかにし、そこにストーンズのロックンロールがどういう関わり持ってきたかを次々と浮き彫りにしていく。その中で、現地のグループが現地のスタイルでストーンズの名曲を演奏するシーンが挟まれたりもするのだが、それがただの突飛な試みではなく、曲選びにも意味を持たせてあるのが伝わってくるなど、音楽的にも奥深い試みとなっている。

 

  また、ツアーの進行と並行して進められていたハバナでのフリー・コンサートの準備の様子も合間、合間で見せてくれており、それが映画全体にいいテンポ感を与えており、クライマックスのハバナでのコンサートへ向けて緊張感がだんだんと高まっていく物語性がうまく演出されてもいる。「オレ!」はもともとスペイン語で闘牛士やフラメンコ・ダンサーに喝采を送る際に使われる掛け声。サッカーの現場でもよく聴かれる言葉として今は有名だろう。その言葉の意味を噛みしめながらこの作品を観ていくと、そうした厳しい状況を乗り越えて「自由」への戦いに勝利してきたラテン・アメリカのかつての若者たちや、その精神を受け継ぐ現在の自分たちのファンたちに対し、ストーンズが自分たちのプレイで喝采を送りながら旅を続けていったように見えてくるのだ。

 

ミックとキース二人

  注目シーンも盛りだくさん、中でもドレッシング・ルームでミックとキース二人だけで喋ってるシーン。これぞまさに現在のグループがうまく行ってる証! しかも、その直後、ファンは今ここで簡単に書いてしまうのも勿体ないほどの驚きの光景を目撃することになる!

 

『ハバナ・ムーン ストーンズ・ライヴ・イン・キューバ2016』

『ハバナ・ムーン ストーンズ・ライヴ・イン・キューバ2016』

原題|‘HAVANA MOON’ – The Rolling Stones Live in Cuba

『ハバナ・ムーン ストーンズ・ライヴ・イン・キューバ2016』

2016年/110分/16:9/BD/2ch/日本語字幕

  • 収録楽曲
  • ①Jumpin' Jack Flash
  • ② It's Only Rock 'N' Roll (But I Like It)
  • ③ Out Of Control
  • ④ Angie
  • ⑤ Paint It Black
  • ⑥ Honky Tonk Women
  • ⑦ You Got The Silver
  • ⑧ Midnight Rambler
  • ⑨ Gimme Shelter
  • ⑩ Sympathy For The Devil
  • ⑪ Brown Sugar
  • Encore:
  • ⑫ You Can't Always Get What You Want
  • ⑬ (I Can't Get No) Satisfaction

文=寺田正典

  このコンサートに関しては日本でも国際ニュースの枠で大きく報じられたのでご存じの方も多いだろう。長く断交していた米国とキューバが54年ぶりに国交を回復、それを受けてのオバマ大統領による歴史的なキューバ訪問(3月20日)の直後にハバナで実現した西側の超大物ロック・バンドによるフリー・コンサートとあっては世界のメディアから大きな注目を浴びるのは必然だった。

 

『ハバナ・ムーン ストーンズ・ライヴ・イン・キューバ2016』

  映画のタイトルは『ハバナ・ムーン』。これは彼らも尊敬するロックンロールのオリジネイター、チャック・ベリーのファースト・アルバム『アフター・スクール・セッション』(1957年リリース)に収められていた異色のムーディなナンバーからとられている。革命後のキューバが1961年に米国と国交を断絶する以前、ラム酒を飲みながらロックンロールで踊ることも普通だった頃のハバナを舞台にした歌だったが、そんな歌のタイトルを、キューバと米国の国交回復の年に行なわれた記念すべきコンサートの模様を収めた映画のタイトルに持ってくるセンスがまず素晴らしい。このタイトルだけで、この映画の成功は約束されたも同然ではないか!とぼくなどは思ってしまったほどだ。

 

  思えばストーンズが活動を開始したのは1962年。これはまさにキューバ危機が起こった年でもある。以降、ストーンズは東西連戦下で西側世界の若者文化を代表する存在として大きな成功を収めていくが、彼らが「壁」の向こう側の東側の社会に対して高い関心を持ち続けてきたことも見逃せない。1967年に西側の有力バンドとして初めてポーランド公演を行なったのもその例であり、'70年代にはもう中国やソ連での公演の可能性を探っていた。'80年代半ば以降グループ活動が停滞したこともあったが、ベルリンの壁が揺らぎ始めた1989年にはツアー活動を再開、'90年にはチェコスロヴァキア、'95年にはハンガリー、'98年にはロシア、2006年には中国と、かつての「壁」の向こう側の国々の音楽ファンを攻略してきた。そうしたストーンズの活動は、ロンドン経済大学で学んだミック・ジャガーが「壁の向こう」の社会、あるいは人々に対して強く持っている興味に支えられてきたのではないかと推測しているのだが、2016年のキューバでのコンサートは、まさにその集大成と言えるものであったに違いない。それはミックがコンサートの事前調査のために前年10月に単身ハバナを訪れたりしていたことからも十分伝わってきていた。

 

『ハバナ・ムーン ストーンズ・ライヴ・イン・キューバ2016』ミック・ジャガー

  演奏やセットリストは、この年の2~3月に行なわれた南米ツアーのものが踏襲されているが、2014年に亡くなったボビー・キーズの代わりに加入したサックス奏者のカール・デンソン、長くストーンズ・ファミリーの一員として活動してきたリサ・フィッシャーに代わって起用されたヴォーカリストのサーシャ・アレンといった、新たに加わったメンバーたちの新鮮かつアグレッシヴなサポートぶりにも要注目。'89年のアルバム『スティール・ホイールズ』以来、ストーンズの活動を陰に陽に支えてきたキーボーディスト、マット・クリフォードの好サポートぶりも今回はハッキリと確認できる。そしていつもの「無情の世界」はここでも、ハバナのコーラス・グループとの共演が実現している。

 

  映画のイントロとエンディングで流れるのは『メイン・ストリートのならず者』のデラックス・エディションからの2曲。1972年の傑作アルバムのしかもアウトテイクを何故敢えてこのキューバでのライヴ・ドキュメントの前後に加えてきたのか?なんてこともいろいろと考えを巡らせながら、美しい「ババナ・ムーン」の下で行なわれたミックたちのこの壮大なチャレンジの様子を大画面で存分に味わえる至福! いや、すべてのストーンズ・ファンは、ミック・ジャガーが一番見たかった、現地キューバの音楽ファンたちのピュアな熱狂ぶり、そして終演後も続く、ベロマークTシャツを着た年輩の住人たちの何とも幸せそうな表情をしっかりと確認しておかなければならない。