●本作はまだMTVもミュージック・クリップも殆ど無かった時代の1983 年に制作された、日本初とも言える本格的ロック・ドキュメンタリー・フィルムだ。
●撮影監督は井出情児。彼は日本におけるロック・ドキュメンタリー映像作家の第一人者でありパイオニアと言える人物。そして佐野元春は、自身のドキュメントを撮影して欲しいと自ら井出情児に依頼し、本作は完成した。
●1983年当時、佐野元春は27歳。彼はその活動ベースを日本からアメリカヘ移そうと考えていた。自分のキャリアもそう長くは続かないであろうと感じていた彼は、デビューから3年間のライヴを映像として記録しようと思い立った。そして多感な時期に見て感動したザ・ビートルズの「レット・イット・ビー」、「ウッドストック」、ザ・バンドの「ラスト・ワルツ」を自らの基準として、ドキュメンタリーとエンターテインメント性の両方を兼ね備えた作品を制作したいと考えた。
●本作がMTV以前に作られていたという意義はとても大きい。しかもレコード会社や映画関係者からではなく、ミュージシャンである佐野元春本人からのアイディアであったことは、注目に値する事実だ。彼はそれまでに無かった日本語とビートとの新しい表現を提案し、その斬新なビート、言葉、ヴォーカル・スタイルで日本のロック・シーンに革新をもたらした。「つまらない大人にはなりたくない」(ガラスのジェネレーション/1980年)既成の体制や大人たちへの抵抗、新しい価値を生むための若いエネルギー•••それらは佐野元春の歌詞の一節、このテーゼに見事に全てが集約されている。
●1983年、中野サンプラザでのライヴがフィルムに記録された。佐野元春、1980年代初期の姿を映した奇跡のドキュメンタリー、それが「Film No Damage」だ。街に暮らすティーンエイジャーたちの夢と挫折、経験とイノセンス、熱狂と焦燥。その全てがここにある。
●本作は1983年に劇場公開された。当時16mmフィルムで撮影されたものを2013年に完全デジタル・リマスター化し、5.lchサラウンドによって当時の感動と興奮をさらに磨きをかけて再現。当時の佐野元春を知る世代だけではなく、新しい世代にも伝わる青春の普遍性を感じさせるものだ。まさにレジェンドと呼ばれるに相応しい輝きを放っている。
●また、今回の立川シネマシティでの上映では、2018年に再マスタリングした音声マスターに対し劇場の音響特性に合わせた調整を施しており、古参のファンもより楽しめるものとなるだろう。