目と耳で味わい尽くす! 『ピアノ・マン』 史上、最強パッケージ!
2024年1月24日(水)、前回の来日から数えて5545日(=15年と67日)、ビリー・ジョエル久々の日本公演が満杯の東京ドームで遂に実現した。その開催を告げる朗報が耳に届いた2023年は、日本のビリー・ファンにとって喜ばしい一年になったが、ビリー自身にとっても記念すべき一年だった。大手レコード会社コロムビアと契約し、『ピアノ・マン』をリリースしたのが1973年11月。その年の春までロサンゼルスのバー、エグゼクティヴ・ルームで“BILL MARTIN”の名を使い、身を隠すように“ピアノ・マン”をしていたビリーにとって、弱小の新興レーベルから超大手の名門レーベル“コロムビア”への移籍は、起死回生の大逆転満塁ホームランを放ったかのような劇的な出来事だった。
それから50年の時を経て74歳になったビリーは、エグゼクティヴ・ルームでの定期出演から、世界で最も有名なコンサート会場“マディソン・スクエア・ガーデン”(MSG)を定期公演の場に移していたのである。感慨もひとしおだったであろう。“BILL MARTIN”の名でピアノ・マンをやっていた時代とは比べ物にならない規模の名声を得た今のビリーは、“BILLY JOEL”の大看板を掲げることで、2014年1月から毎月、2万人収容のMSGをソールドアウトさせている。需要が無くなるまで続くとされたMSGでのレジデンシー公演であるが、自らの意志で同会場での通算150回目のライヴを以て終了すると表明。2024年7月25日に開催予定の公演で大団円を迎えることが決定している。
久々の来日公演決定のインパクトがあまりにも大きかったせいか、忘れられがちだったが、2023年はあの大名盤『ニューヨーク52番街』も、大ヒット作『イノセント・マン』も、最後のスタジオ・(ポップス)アルバム『リヴァー・オブ・ドリームス』も、それぞれ発売から45周年、40周年、30周年と、ビリーの代表作のビッグ・アニバーサリー・イヤーだった。
そして、この『ピアノ・マン 50周年記念デラックス・エディション』はもちろん、オリジナルの発売日(11月9日)をターゲットに準備が進んでいたが、スポットライトを来日公演に譲る形で『ビリー・ザ・ベスト:ライヴ!(ライヴ・スルー・ザ・イヤーズ: ジャパン・エディション)』を来日記念盤として先にリリースし、満を持してのリリースとなった。
肝心の中身だが、とにかく内容が素晴らしい。DISC1(ハイブリッドSACD)では、1974年に発表された幻のクアドラフォニック・ミックスを世界で初めてSACD化。また通常のステレオ・ミックスも2023年最新リマスターにてSACD層とCD層に収録してある。スピーカーを前後4箇所に配置することで、音楽をより立体的に体験できるクアドラフォニック・ミックスは、1970年代前半、LP及び8トラック・カートリッジでリリースされていた。日本でも当時、サンタナやジェフ・ベックなど、人気アーティストの作品がリリースされたが、専用のプレーヤーやアンプ、スピーカーを揃えなければその醍醐味を体感できないのがネックとなり、短命に終わった。ただ、それらの盤には、通常のステレオ盤では聴くことができない別テイクなどが収められていることがあり、知る人ぞ知る人気盤になっている(この『ピアノ・マン』にも、通常のステレオ盤には登場しない音が存在している!)。
DISC2には権利関係がクリアな『ピアノ・マン』に関する音源を可能な限り収録してある。『MY LIVES』のiTunes版のみでリリースされていた「Josephine(Demo)」と「So Long, Reverend Ike」は世界初のCD化が実現した貴重な音源だ。
DISC3のDVDにも『ピアノ・マン』に関連する貴重な映像が盛り沢山(11曲中8曲が世界初DVD化)。「ピアノ・マン」だけでも4種類の映像が収録されているが、異なる時期に撮影されたそれらを見比べるのも面白い。今やYouTubeで観ることの出来る映像も含まれているが、DVDならではの解像度で収録されているため、よりクッキリした映像で若々しいビリーの姿を堪能できる。ファミリー・プロダクション時代に撮影されたレアな「エヴリバディ・ラヴズ・ユー・ナウ」の追加収録も嬉しいところだ。
2018年に発売40周年を記念してリリースされた『ニューヨーク52番街』と『ストレンジャー』に続き、高音質かつ立体的なサラウンド・サウンドでビリーの名盤を楽しむこのシリーズ。1970年代当時、ビリーのクアドラフォニック盤は『ピアノ・マン』のほかに、『ストリートライフ・セレナーデ』と『ニューヨーク物語』もアメリカでリリースされていた。つまり、楽しみはまだまだ続く、ということだ。