大貫妙子スペシャルインタビュー [前編]

『ミニヨン』『ロマンティーク』『アヴァンチュール』を語る

大貫妙子スペシャルインタビュー

Special Interview Onuki Taeko talks about the "MIGNONNE ", "ROMANTIQUE ", " AVENTURE "

── 2016年にデビュー40周年を迎えた今年5月23日に、1978年9月に発売され、名盤として今も聴き継がれている3枚目のオリジナルアルバム『MIGNONNE(ミニヨン)』(1978年)の、アナログ復刻盤が5月23日発売されました。続いて7月25日には『ROMANTIQUE(ロマンティーク)』(4thアルバム/1980年)『AVENTURE(アヴァンチュール)』(5thアルバム/1981年)のアナログ復刻盤が発売され、今、改めて大貫さんが紡ぐ言葉とメロディに注目が集まっています。この後、『Cliché(クリシェ)』『SIGNIFIE(シニフィエ)』『カイエ』のアナログ復刻盤の発売も予定されていますが、坂本龍一を始め、加藤和彦、清水信之ら豪華アレンジャー陣と、細野晴臣、高橋幸宏ら豪華ミュージシャンが生み出した当時の最先端のサウンドは今聴いても素晴らしいです。そんな、当時の制作現場の様子を思い出していただきながら、これらの作品への思いを改めて聞かせて下さい。まずは3rdアルバム『ミニヨン』についてお伺いします。この名盤について、過去のインタビューでは、納得がいっていない一枚とおっしゃっています。

大貫  シュガー・べイブ解散後ソロになって、2枚は本当に自由に創っていたので、RVC移籍第一弾はプロデューサーを立てて制作することになりました。きっとマーケットを考えたものを作るように、というレーベルの意向だったと思いますけれど、プロデューサーが小倉エージさんに決まったと聞いた時、シュガー・ベイブ時代は評論家の方から良い評価をもらったことがなかったので、評論家と聞くだけで嬉しい存在ではなかったですね (笑)。メロディも歌詞もけっこう書き直しました。それまであまりに自由に創ってきたので。書きなおすということがどういうことか理解していなかったし、わかりやすくっていわれても、わかりやすいってどういうことなのかがわからないし。そうしているうちに、最初にその曲を書いた時の気持ちからどんどん離れていくので、その曲がいい曲なのかどうかさえもわからなくなったんですよね。売れるためにわかりやすいものをと言われたけれども、結果的に以前の作品よりも売り上げが落ちたんですよね。その矛盾というか、音楽を続けて行くということは、常にその繰り返しが待っているんだろうなと。それで、なんだかつまらなくなって、やめちゃおうかなと思っていたんです。先月(9月7日)ビルボード大阪公演にいらして下さり、かつてCMのお仕事をさせていただいた方からメールいただき、その方が小倉エージさんをご存知で、その時『ミニヨン』について私が話したことを小倉さんにお伝えしたそうです。すると小倉さんからこんなメールが届いたとお知らせくださったのです。「『ミニヨン』でいちばんのテーマとしたのは、アメリカ産のポップス寄りのアルバムをつくるのではなく、基本的にはシンガー=ソング・ライターとして普遍的な日本のポップスとしての曲、それを表現するシンガーとしての大貫妙子を誕生させることでした」と。実際、このアルバムに収録されている「横顔」「突然の贈りもの」「海と少年」は人気の曲で現在も歌い続けています。そういう曲が生まれた『ミニヨン』というアルバムは、小倉エージさんがおっしゃっているとおりの、時を経て歌い続けられることの大切さを、40年も経って教えられたアルバムだと思います。

── 本当に音楽をやめようと思ったんですか?

大貫  本当に(笑)。2年間何も自分の音楽活動はしなかったです。でも山下達郎さんに「暇だったら手伝って」と言われ(笑)、ツアーのバックコーラスをしたり、とか。

MIGNONNE(ミニヨン) 『MIGNONNE(ミニヨン)』(3rdアルバム/1978年)
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── 『ミニヨン』は以後、全く聴かなかったとお聞きしました。

大貫  ずっと、毎年アルバム制作を続けていたので、過去のアルバムを聴きなおすということをあまりしないのですが、ミニヨンはとくに聴かなかったですね。このアルバム自体がどうこうではなく、その時の気持ちが全部蘇ってきて、歌も下手だし、自分の嫌なところばかりが耳について。でも今回のアナログ復刻盤発売にあたり、バーニー・グランドマンによって新たにリマスタリングされた音源を聴いてみると、あれ? 嫌なところがどこにもないって思いました(笑)。流石だなって。海外で録音すると、とても勉強になるのは、音楽とは全体なのだということ。そのバランス感覚ですね。最初からそうしてくれればよかったのにって(笑)。でも当時は日本でこういう音楽ジャンルが走り出したばかりでしたから、制作側もアーティストもみんな若くて、まだアマチュアだったのだと思います。

── 『ミニヨン』は、シュガー・べイブの残り香が漂う、アメリカンポップスがベースになった作品ですが、2年という時間を経て発売された4thアルバム『ロマンティーク』(1980年)は、いわゆる“ヨーロッパ3部作”と呼ばれる作品の第一弾です。現在も変わらない大貫さんのスタイルを確立した名盤として聴き継がれていますが、大貫さんにとって、どういう位置づけになる作品なのでしょうか?

大貫  音楽は好きで続けたいけれど、なんとなく二の足を踏んでいた時、牧村憲一プロデューサーから「たあぼおは、ほんとに音楽やめちゃうの?」と聞かれ、「声量を要求されるような音楽ではなくて、逆に囁くような歌の方が向いているかもしれないよ?」と提案されました。

── それが「ヨーロッパっぽい音楽をやってみないか」という提案だったんですね。大貫さん自身もフランス映画や、フランソワーズ・アルディやジェーン・バーキンが好きだったこともあり、興味を持たれた、という感じでしょうか?

大貫  最初に牧村さんが用意してくださった、ヨーロッパ関係の映画、音楽、本などの資料の多さにびっくりしたことを覚えています(笑)。当時はヨーロッパに行ったこともないし、それはあくまでヨーロッパっぽいという個人的な、感じたままの世界観で、日本人なのにヨーロピアンって何だろう?とふと思ってしまったり。でもそれを言ったらアメリカの音楽を自分のものにしたいと思っていたのはなんなの、っていうことにもなってしまうわけで。ヨーロッパ映画も音楽も好きだったのに、当時ポップスにそれを取り入れた風は吹いていなかっただけで、レコーディングに入ってみると、坂本龍一さんを始め参加してくださったミュージシャンも、みんなヨーロッパの映画や音楽が好きだった、ということがわかったことでした。だから映画音楽というか、映像が浮かぶような感じの音楽を目指しました。歌も、必要以上に張って歌うことをしない、ということに。それが本当に自分に合っているかどうかは、まだ当時は判断できなかったです。それよりヨーロッパっぽい曲や歌詞を書くことの方に面白さを感じていたし、もしかしたらこの方向性は自分にあっているかもしれないと思っていました。が、自分で書いた曲であっても歌うと意外と難しく、歌が追いつかないというジレンマに悩まされました。

『ROMANTIQUE(ロマンティーク)』(4thアルバム/1980年) 『ROMANTIQUE(ロマンティーク)』(4thアルバム/1980年)
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── このアルバムの中で大貫さんの特にお気に入りの曲は?

大貫  「雨の夜明け」ですね。

── 大貫さんの代表曲のひとつ「新しいシャツ」や、シュガー・ベイブのアルバム『SONGS』に収録されている「蜃気楼の街」のセルフ・カヴァーも収録されている、大貫さんにとってもファンにとっても大きな存在の一枚になっていると思います。

大貫  「新しいシャツ」は、ある別れのシーンですが、その時に言葉にできない思いを歌っているので、今はピアノだけとか、ごくシンプルなアレンジに変えています。このオリジナルのアレンジを聴くと、歳のせいか今はちょっと違うかなと思います(笑)。坂本さんには申し訳ないですけれど。

── “ヨーロッパ3部作”第2弾『アヴァンチュール』(1981年)は、前作『ロマンティーク』より、少し霧が晴れ、雲間から陽が差してきたかのようなポップさを感じる一枚です。

大貫  『ロマンティーク』を作ってわかったことを、さらに明快にしたのが『アヴァンチュール』です。ヨーロッパっぽいジャズがすごく好きだったので、前田憲男さんがアレンジしてくださった「グランプリ」も気に入っています。「la mer, le ciel」と「アヴァンチュリエール」は今もコンサートで歌っています。もう言ってもいいと思うけど、「ブリーカー・ストリートの青春」以外は全部好きです(笑)。

── 確かに「ブリーカー・ストリートの青春」は、ヨーロッパからいきなりニューヨークに飛んでしまったような作品で、他の曲とは温度感が違いますよね。

大貫  この曲は牧村さんのアイディアで、あの頃のグリニッチ・ビレッジに集う若者たちを描くのがいいんじゃないかなって。全体のコンセプトが何かの映画に由来しているので、それは問題ないんですが、アレンジが異色でしたね。

── 「アヴァンチュリエール」は長めのイントロがお洒落で、雰囲気をさらに盛り上げますよね。当時こういう曲はあまりありませんでした。

大貫  映画『冒険者たち』とかの音楽を手掛けた、フランソワ・ド・ルーベという作曲家が作る音楽が美しくて、その世界観をイメージして作りました。

『AVENTURE(アヴァンチュール)』(5thアルバム/1981年) 『AVENTURE(アヴァンチュール)』(5thアルバム/1981年)
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── ところで、大貫さんはこのアルバム復刻盤の新しいセルフライナーで、改めて“ヨーロッパ3部作”は、『ロマンティーク』、『アヴァンチュール』、そして『Cliché(クリシェ)』だとおっしゃっていますね。

大貫  レコード会社の宣伝方針で『ミニヨン』『ロマンティーク』『アヴァンチュール』をヨーロッパ3部作と呼んでいますが、最初から同じコンセプトで3枚制作しようと決めていたわけではありません。『ロマンティーク』の売上げが好調だったこともあり、『アヴァンチュール』が発売される時点で、『ミニヨン』がたまたまフランス語だったということだけで、それも含めて3部作になりました。『ミニヨン』のどこがヨーロッパなのかと感じている人もいると思いますが、私も同感です。『ロマンティーク』『アヴァンチュール』『クリシェ』の3枚が ヨーロッパ色が濃いアルバムになっています。

── ところで、大貫さんは11月1日に横浜・関内ホールで行われる、“シティ・ポップ”フェスともいうべきライヴイベント“otonanoライブ”(出演/大貫妙子、伊藤銀次、カズン、楠瀬誠志郎)への出演が決定していますが、どんなステージになりそうですか?

大貫  出演者、バンド(上原“ユカリ”裕[Dr])/ 田中拡邦[G]/ 六川正彦[B]/ 細井豊[Key])も含めて、このメンバーだと、自ずとシュガー・べイブの曲をやりたくなりますよね。「約束」とか「すてきなメロディ」とかできるといいですね。(伊藤)銀次さんと相談して、みんなが一番やりたい、楽しくやれるものを歌いたいです。今、本当に歌うことが楽しいので、皆さんにそんな気持ちが伝わるステージになるよう、頑張ります。

大貫妙子スペシャルインタビュー

大貫妙子スペシャルインタビュー[後編]はこちらから▶

インタビュー・文/田中久勝 写真/島田香

関連サイト

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大貫妙子 mignonne