LOGIC 和FAIR松武秀樹×土屋昌巳×山口美央子 スペシャル鼎談レポート

LOGIC 和FAIR

  シンセサイザー・プログラマー松武秀樹が、4月の「LOGIC EXHIBITION」に続いてキュレーションを務めたイヴェント「LOGIC 和FAIR」が、12月9、10日の2日間にわたり東京・恵比寿LIQUIDROOM上のギャラリースペース「KATA」にて開催された。

  本イヴェントは、昨今若い音楽好きたちの間でも注目を集める“和モノ”をキーワードに、数々の偉大なポップス・歌謡曲の名曲誕生と発展に貢献してきた松武の仕事を多角的に紹介するもの。

LOGIC 和FAIR 松武秀樹×土屋昌巳

  会場では松武の代名詞である“箪笥”=Moog IIIcやEμ Modular System等の大型シンセサイザー、参加作品のレコードジャケットがディスプレイされた。またLOGIC STOREとしてCD、書籍、中古レコードも大量出品された他、HMV record shopも出店して新旧問わず“和モノ”の魅力を広くプレゼンテーションするセレクトでアナログ・レコードが販売された。中でも目玉は、80年代和風テクノポップの名盤として海外でも高評価を受けるも、これまで一度も再発されることのなかったシンガーソングライター山口美央子の『月姫』をはじめとするアルバム3作の一挙CD化。「LOGIC 和FAIR」最終プログラムのトークイヴェントとして、松武と山口、そして『月姫』の大半の曲のサウンドプロデュースを担当した土屋昌巳の久々の再会が実現した。

LOGIC 和FAIR 松武秀樹×土屋昌巳

  トーク前半は松武、土屋の2人で登場。入手困難だった80年代エピック・ソニー時代のソロ全音源を収めたCDボックス『SOLO VOX –epic years-』が12月20日に発売となった土屋は、「YMOの曲は、各メンバーが国内でも屈指のプレイヤーだから当然手弾きで演奏出来るが、それを松武さんがわざわざ数値化して自動演奏している。それこそがテクノのグルーヴで、楽器ができない人が代わりに機械に演奏させるのとは次元が違う」「打ち込みに関しては本当に多くのことを松武さんから学んだ。先生のような人。教授(坂本龍一)には音楽面でたくさんのことを教わった。(高橋)幸宏さんからは映画やアートのハイレベルな話をされて、それを理解するためにすごく勉強した」と、YMOメンバーや松武との深い関わりとリスペクトを熱く表明。

LOGIC 和FAIR 松武秀樹×土屋昌巳

  一風堂時代の大ヒット曲「すみれSeptember Love」については、「イントロは松武さんが作ったクリック音を流用した。超多忙な中での化粧品CM曲の依頼ではあったが、作曲は1日で完了した」というエピソードを披露。
ここから話題は突如“はんだ”に移行。ギターの配線をつなぐはんだはチェコや旧ユーゴスラヴィア製のものが最高という土屋の持論が展開された。そこに多く含まれた不純物が“空気感”や“ゆらぎ”につながるという。
プロデュースを担当したザ・モッズの録音で英国エアー・スタジオに赴いた時には、ちょうどポール・マッカートニーとマイケル・ジャクソンも録音しており、よく顔を合わせた。ザ・モッズの強面ルックスぶりにマイケルが脅えていたという逸話で笑いが起こる。

  後半は、滅多に人前に姿を現すことのない山口美央子が加わって3人トークに。土屋がアルバム『月姫』を久々に聴き直した感想は「声が無欲。最近は欲の固まりみたいな歌ばかり聞こえてきてつらかったんだけど、これで救われた」。一方、土屋との初めての仕事に多少不安を抱きつつ山口はテストを兼ねてシングル曲「夏」の制作を依頼。そこで土屋は山口の声の個性を最大限に生かすため、徹底的にサウンドの“カド”を出さない方法をとった。ギターはピック弾きを避けE-Bowやフィードバックを多用、ドラムはスタジオではなくエレベーターホールで録音されたため、アンビエント音を多く含む。その仕上がりを聴いて山口はアルバム全体を土屋に委ねられる信頼感を得たという。

LOGIC 和FAIR

  「デモテープの詞をちゃんと聴いて、かわいいことをしてくれた」と土屋のプロデュース手腕に賛辞を贈る山口。土屋は「彼女はデモ段階で詞はほぼ完成していた。よくラララ~の仮歌だけで依頼されることがあるけど、僕らは“うた”を聴かせるために音を作っているのだから、“うた”が付いてないものに音は付けられない」と、効率偏重のあまり、中心にあるべき“うた”が軽視されがちな昨今の音楽制作状況への苦言も含む言葉で応えた。
松武から今後の活動について訊かれると、山口は「コンセプト・物語的なものは自分の中でやるべきと思っている」とニュー・アルバム制作への意欲を見せた。松武は「その時はぜひ我々にご用命を」とすかさずアピール。聴衆からも期待を込めた拍手が送られた。

  最後に松武から、「“本物”を作っていく方向に業界を戻したい。いい音で鳥肌が立つようなものを作りたい。70~90年代の音楽業界に活気があった時代のように音楽好きを増やしていきたい」と今後への決意が語られ、約2時間にわたったトークイヴェントを締めくくった。

文:網師本博(ソニー・ミュージックダイレクト)写真:高田展弘(ミュージックエアポート)

松武秀樹/ロジック・クロニクル
2017年2月22日発売
MHCL 30437~41(CD5枚組)
¥10,000+税
高品質Blu-spec CD2仕様
選曲:田中雄二&松武秀樹/解説:田中雄二
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