一〇五(いちまるご)

娘がつなぐ五世勘五郎の長唄世界

長唄三味線:杵屋響泉

大正に生まれ昭和・平成を経て、令和の時代へと繋ぐ
“奇跡の105歳”   きねきょうせん

105歳の現役長唄三味線奏者・杵屋響泉の驚異のCDデビューアルバム。
早逝した父・五世杵屋勘五郎の芸を、娘は人生をかけて見事に受け継いだ。時代に流されず、作曲当時のノリや曲想をここに現出する。
本作品は、響泉が愛してやまない父・勘五郎が作曲した楽曲を収録。世紀を超えて響泉が奏でる、長唄への情熱と勇気の、今を体感する1枚。

長唄三味線:杵屋響泉「 一〇五(いちまるご) 娘がつなぐ五世勘五郎の長唄世界」 定価:各¥2,315+税 品番:MHCL 2801 ご購入はこちらから
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  • 【収録曲】
  • 1.しず苧環おだまき (作詞:菊地武徳 / 作曲:五代目 杵屋勘五郎) 唄:杵屋六響 三味線:杵屋響泉、杵屋和久 笛:福原洋子
  • 2.春秋はるあき (作詞:如蓮居士 / 作曲:五代目 杵屋勘五郎) 唄:杵屋六響、芳村伊四妙、芳村伊四紗栄 三味線:杵屋響泉、杵屋五三魅、杵屋和久
  • 3.多摩川たまがわ (作詞:菊地武徳 / 作曲:五代目 杵屋勘五郎) 唄:杵屋六響、東音 大森多津子 三味線:杵屋響泉、杵屋五三魅
  • 4.楠公なんこう (作詞:榎本虎彦 / 作曲:十三代目 杵屋六左衛門) 唄:十五代 杵屋喜三郎、杵屋直吉、杵屋六響 三味線:杵屋響泉、杵屋五三魅、杵屋和久 小鼓:仙波宏薫 大皷:藤舎千穂 太鼓:梅屋 巴 笛:福原洋子

長唄三味線:杵屋響泉

杵屋響泉   略歴

大正3年(1914)、東京築地生れ。現役最高105歳の長唄三味線演奏家。

「島の千歳」「新曲浦島」等の作曲で知られる、五代目杵屋勘五郎の一人娘。

十代より後進の育成に励み九十余年。現在は娘・六響と共に「響泉会」「響の会」を主催。

長唄協会定期演奏会、東京新聞主催・新春邦楽舞台始め女流名家長唄大会、各演奏会、イベント企画、邦楽普及活動、NHKラジオ等出演。

昭和38年(1963)、父が隠居名にする心つもりであった「杵屋響泉」を名乗る。

昭和42年(1967)、父の五十回忌に当り「五代目杵屋勘五郎追善五十年記念祝賀長唄演奏會」を主催。

平成17年(2005)、長唄協会より永年功労者として表彰され、「賤の苧環」を国立小劇場にて記念演奏。

平成25年(2013)、白寿記念の演奏会「百乃壽」を紀尾井小ホールにて開催。

平成28年(2016)、「五代目杵屋勘五郎追善百年祭」を命日に、紀尾井小ホールにて主催。

平成29年(2017)、文部科学省より伝統長唄保存会、重要無形文化財長唄保持者に認定。

平成30年(2018)、富士フイルム(株)「楽しい100歳。」企画にて、父親作曲の「新曲浦島」を演奏。

2018年6月よりウェブコンテンツ公開中。http://brand.fujifilm.co.jp/healthcare/movie/

平成31年(2019) 平成三十年度文化庁長官表彰を受ける

杵屋響泉出演 / 104歳密着ドキュメンタリー|富士フイルム「楽しい100歳。」

長唄とは

蒲生郷昭(東京文化財研究所名誉研究員)

長唄は、歌舞伎で舞踊の「地(じ)」 (「伴奏」に近いがやや異なる)として重要な役割を担っている三味線音楽である。歌舞伎の三味線音楽といえば、ほかにも常磐津節、清元節、竹本(義太夫節)などの浄瑠璃があるが、それらはいずれも歌舞伎とはべつのところで成立したものを歌舞伎が取り入れたものであるのに対して、長唄は、歌舞伎の一部分として生まれて花開いた音楽である。歌舞伎そのものよりはやや短いが、約三百年の歴史を持つ。母体である歌舞伎がさまざまの要素を取り入れて様式の幅を拡げていったのをそのまま反映して、長唄も時代とともに多様化の道を歩んできた。いずれにしても長唄は、歌舞伎劇場で舞踊とともに演奏されるのが本来の形だった。

いっぽうで、長唄を好む富裕な人や身分上歌舞伎劇場には行きにくい人が、自宅や料亭などにその演奏家を呼び、舞踊の地としてではなく長唄のみを演奏させて鑑賞することも、かなり早い時期からおこなわれていた。文政のころ(十九世紀前半)になると、そういう催しのための長唄、つまり純演奏用の曲が新しく作られるようになる。それらの曲は、歌舞伎ないし舞踊の制約を受けることなく、音楽本位に作曲することができた。そしてそこからも数多くの名曲が生まれ、新しい「多様化」が加わることになる。明治以後は、不特定多数の聴衆を想定しての演奏会用長唄もでき、その傾向はいっそう強まった。むろん、歌舞伎用の長唄の作曲もつづくが、そのいっぽうで、歌舞伎には出ることのない、純音楽としての長唄を専門とする演奏家が多数生まれた。

長唄は、唄と三味線、それに囃子からなり、それぞれを専門とする人が演奏する。囃子はひとまずおくと、唄と三味線は、ほかの三味線音楽と大差ないように聴こえ、あるいは見えるかもしれない。けれども、発声法や楽器の規格、技法などには、それぞれの音楽ごとに独自のものがあり、長唄の唄も三味線もそれぞれを専門とする人が演奏する。そして、浄瑠璃(「浄瑠璃」という音楽の声のパート)やその三味線を兼担することは、基本的にはない。三味線についていえば、バイオリン、ビオラ、チェロそれぞれの楽器ごとに専門演奏家がいるのと同じように、常磐津節三味線の専門家や長唄三味線の専門家がいるのである。なお、「唄」という文字を用いるのは強固な慣習であるにすぎず、そのことによって特別な音楽様式を示そうとするものではない。

唄は明るく伸びやかな発声と明晰な発音でうたわれ、独唱と斉唱の対比を聞かせ、独唱についても担当者の交替によって一人一人の声を聞かせる。三味線にも硬軟織り交ぜた撥扱いと急速な運指があり、唄がうたわれずに三味線だけで奏される部分がある。それがある程度以上長いと「合方」と呼ばれ、タテ三味線(三味線の首席奏者)がワキ以下と異なる旋律を弾くなどして複旋律にしたりもする。そこに囃子の効果が加わって、演奏全体として、沈静、厳粛、軽妙、華麗、豪快など、幅広い表現力を発揮する。げんざい各種三味線音楽のなかで愛好者が一番多いのが、この長唄である。