Illustration by Eizin Suzuki
杏里、西城秀樹、中森明菜からNOBU CAINE、青木智仁、佐藤 博、JADOES、まで。
角松敏生が手掛けた様々なアーティストの名曲を時代やレコード会社の枠を超えてコンパイル。希少音源も多数収録。
今最も影響力のあるプロデューサー/シンガー・ソングライター角松敏生の作品集が誕生!
1981年にアルバム『SEA BREEZE』、シングル「YOKOHAMA Twilight Time」でデビュー以来、いつの時代も創造と革新を求め、拘り抜いたサウンド・プロダクションによって常にパーフェクトを追求してきた角松敏生は、いち早くNYサウンドにもアプローチし、さらに他アーティストへの楽曲提供や編曲、プロデュースも手掛けています。
日本の音楽シーンにおいて、ジャズ~フュージョン、ダンスなど、あらゆる音楽スタイルを消化した角松敏生シグネーチャーとも言える独自のブラック・コンテンポラリーサウンドは、近年では特に海外のDJ~ダンス・シーンからの再評価も著しく、今最も影響力のあるプロデューサー/ シンガー・ソングライターの一人となっています。
そんな角松敏生が手掛けた様々なアーティストの名曲を厳選し、時代やレコード会社の枠を超えてコンパイルした今作品では、楽曲はもちろんのこと角松敏生のプロダクションで度々、起用された凄腕ミュージシャンたちも多数参加していることも注目ポイントとなっています。
今になってこのような作品群を取り上げていただくのは、
嬉しくもあり同時に複雑な想いでもあります。
あの頃、自分なりに確信を持って創造していたことは
実はそれほどまでには評価されなかった。
気持ちは負けまいとは思いながら挫折感に苛まれる日々だった90年代。
今、50代還暦世代の郷愁や慰めに少しでもなるならそれも良し。
また、あの頃すでにこんなことをしていたのだということを若い世代に理解していただき、
その歴史的意味を継承することができるなら、
そしてそれが未来の役立てに少しでもなるなら、
それもまた幸いと思う次第であります。
角松敏生
角松敏生ワークス
-GOOD DIGGER-
2020年7月22日発売
品番: MHCL-2859~60
価格: ¥3,200+税
CD2枚組(全32曲収録)/2020年リマスタリング音源使用/歌詞付
<収録曲>
DISC 1
-
Lady Ocean / Tokyo Ensemble Lab
from the album “Breath From The Season”(1988年作品)
作曲・編曲:角松敏生
ブラスアレンジ:数原 晋
プロデュース:角松敏生・数原 晋 (album credit) -
Manhattan Love Affair / 青木智仁
from the album “DOUBLE FACE”(1989年作品)
作曲・編曲:角松敏生
プロデュース:角松敏生・青木智仁 (album credit) -
WINDY SUMMER / 杏里
from the album“TIMELY!!”(1983年作品)
作詞・作曲・編曲:角松敏生
ブラスアレンジ:磯 広行
プロデュース:角松敏生 -
Splendid Love / Sala from VOCALAND
from the album “VOCALAND”(1996年作品)
作詞・作曲・編曲:角松敏生
プロデュース:角松敏生 -
恋は流星 SHOOTING STAR OF LOVE / 米光美保
from the album“FOREVER”(1995年作品)
作詞・作曲:吉田美奈子
編曲:角松敏生
ストリングスアレンジ:小林信吾
プロデュース:角松敏生 -
NIGHT BIRDS / TAMARA CHAMPLIN
from the album “VOCALAND”(1996年作品)
作詞:William Sharpe
作曲:Roger Odell
編曲:角松敏生
プロデュース:角松敏生 -
UNSTEADY LOVE / 中森明菜
from the album “BITTER AND SWEET”(1985年作品)
作詞・作曲・編曲:角松敏生
プロデュース:島田 雄三 (album credit) -
Through the night / 西城秀樹
from the album“GENTLE・A MAN”(1984年作品)
作詞・作曲:編曲:角松敏生
ブラスアレンジ:磯 広行
プロデュース:西城秀樹・岡村右 (album credit) -
Good Bye Boogie Dance / 杏里
from the album “Bi・Ki・Ni”(1983年作品)
作詞・作曲・編曲:角松敏生
ブラス・ストリングスアレンジ:佐藤 準
プロデュース:角松敏生 -
SWEET SURRENDER / 西城秀樹
from the album “TWILIGHT MADE…HIDEKI”(1985年作品)
作詞:吉田美奈子
作曲・編曲:角松敏生
ブラスアレンジ:数原 晋
コーラスアレンジ:吉田美奈子
プロデュース:西城秀樹・岡村右 (album credit) -
HEART BEAT CITY (Extended New Re-mix) / JADOES
from the album “Before the Best”(1987年作品)
作詞・編曲:角松敏生
作曲:藤沢秀樹・角松敏生
プロデュース:角松敏生 -
Triboro Bridge ~Memories of M.K. / 青木智仁
from the album “DOUBLE FACE”(1989年作品)
作曲・編曲:角松敏生
プロデュース:角松敏生・青木智仁 (album credit) -
Desert Butterfly / 凡子
from the album “Desert Butterfly”(2010年作品)
作詞・作曲:凡子
編曲:角松敏生
プロデュース:角松敏生 (album credit) -
THE BLUE CLIF / 友成好宏
from the album “NATURAL SIGN”(1993年作品)
作曲・編曲:角松敏生
プロデュース:角松敏生・友成好宏 (album credit) -
Heart to you ~夜が終わる前に~ / Anna from VOCALAND
from the album “VOCALAND”(1996年作品)
作詞・作曲・編曲:角松敏生
プロデュース:角松敏生 -
NEVER GONNA MISS YOU / 吉沢梨絵 Duet with KADOMATSU T.
from the album “VOCALAND 2〜Male, Female & Mellow〜”(1997年作品)
作詞・作曲・編曲:角松敏生
プロデュース:角松敏生
DISC 2
-
BEAT STREET / 西城秀樹
from the album“TWILIGHT MADE…HIDEKI”(1985年作品)
作詞:吉田美奈子
作曲・編曲:角松敏生
ブラスアレンジ:数原 晋
コーラスアレンジ:吉田美奈子
プロデュース:西城秀樹・岡村右 (album credit) -
All My Dream / JADOES
from the single “All My Dream”(1988年作品)
作詞:角松敏生・斎藤謙策
作曲:伝田一正
編曲:角松敏生
プロデュース:角松敏生 -
SURPRISE OF SUMMER / 杏里
from the album “COOOL”(1984年作品)
作詞・作曲・編曲:角松敏生
ストリングスアレンジ:Barry Fasman
プロデュース:角松敏生 -
FRIDAY NIGHT (Extended Dance Mix) / JADOES
from the 12inch single “FRIDAY NIGHT (Extended Dance Mix)”(1986年作品)
作詞:斎藤兼策
作曲:藤沢秀樹
補作詞・編曲:角松敏生
ブラスアレンジ:数原 晋
プロデュース:角松敏生 -
DISPENSATION / JIMSAKU
from the album “DISPENSATION”(1996年作品)
作詞・編曲:角松敏生
作曲:桜井哲夫
プロデュース:角松敏生 -
IF YOU LOVE SOMEBODY / 布施 明 MEETS KADOMATSU
from the album “Estimado”(1996年作品)
作詞・作曲・編曲:角松敏生
プロデュース:角松敏生 -
NIGHT IN KOZA / NOBU CAINE
from the album “NOBU CAINE”(1989年作品)
作曲・編曲:角松敏生
プロデュース:角松敏生・斉藤ノブ (album credit) -
Movin’ on / 凡子
from the album “Desert Butterfly”(2010年作品)
作詞・作曲:凡子
編曲:森 俊之
プロデュース:角松敏生 -
Angeline (EXTENDED POWER CLUB MIX) / 佐藤 博
from the 12inch single “Sweet Inspiration” (1987年作品)
作詞:リリカ新里
作曲・編曲:佐藤 博
リミックスプロデュース:角松敏生
プロデュース:佐藤博(album credit from ”SOUND OF SCIENCE”) -
最後のレビュー / 鈴木雅之
from the album “Ebony & Ivory”(2005年作品)
作詞・作曲・編曲:角松敏生
プロデュース:角松敏生 -
I SAW THE LIGHT / 友成好宏
from the album “NATURAL SIGN”(1993年作品)
作詞・作曲:Todd Rundgren
編曲:友成好宏
コーラスアレンジ:角松敏生
プロデュース:角松敏生・友成好宏 (album credit) -
ソバカスのある少女 / NOBU CAINE
from the album “NOBU CAINE”(1989年作品)
作詞:松本 隆
作曲:鈴木 茂
編曲:角松敏生
プロデュース:角松敏生・斉藤ノブ (album credit) -
THE TWO OF US / PAULIN WILSON & PHILIPE INGRAM from VOCALAND
from the album “VOCALAND”(1996年作品)
作詞:Bob Wilson
作曲:Mark Vieha
編曲:角松敏生
ホーンアレンジ:Jerry Hey
プロデュース:角松敏生 -
Remember Summer Days / 杏里
from the single “悲しみがとまらない”(1983年作品)
作詞・作曲・編曲:角松敏生
プロデュース:角松敏生 -
いのち / チアキ
from the album “CHIAKI”(2010年作品)
作詞・作曲:角松敏生
編曲:MAOCHICA
プロデュース:角松敏生 -
WAになっておどろう~ILE AIYE~(NHK みんなのうた VERSION) / AGHARTA
from the single “ILE AIYE ~WAになっておどろう~”(1997年作品)
作詞・作曲:長万部太郎
編曲:AGHARTA
プロデュース:角松敏生・AGHARTA
Song Selection: Kisaku Nasu [Tower Records Japan Inc.]
ファンならずともニヤリとさせられるこのネーミング・センス
角松敏生ワークス(作品集)「GOOD DIGGER」「GOAL DIGGER」が同時発売!!
新型コロナ禍で多くのアーティストが活動自粛を強いられる中、デビュー40周年という大きな節目を来年に控えて重要な助走期間にいる角松敏生もまた、コロナに蹂躙されてしまっている。セルフ・カヴァーに洋楽カヴァー曲を追加した最新作『EARPLAY~REBIRTH 2~』は、無事に発売されたものの、アルバムを引っ提げての全国ツアーは中止され、東京・中野サンプラザ公演2daysのみ、12月に順延となった。そうした停滞感を払拭すべく、これまでになかった角松敏生ワークス(作品集)『GOOD DIGGER』(ソニーミュージック)と『GOAL DIGGER』(キング)が2枚同時発売されることになった。その1枚がココにご紹介する『GOOD DIGGER』(ソニーミュージック)である。タイトルは共に角松の代表作『GOLD DIGGER ~with true love~』(85年発表/通算5枚目)からの引用。ファンならずともニヤリとさせられるこのネーミング・センスだけで、スタッフの愛情が漏れ伝わってくるようだ。
角松敏生がこの40年にソロ・アーティスト/シンガー・ソングライターとしてリリースしてきた作品は、オリジナル・アルバムは元より、インストゥルメンタル作、カヴァー・ライヴにセルフ・カヴァー集、サウンドトラック、各種編集・企画盤など、合わせて軽く40枚以上ある。それだけでも充分スゴイ作品数だが、彼の場合は楽曲提供やアレンジャー、プロデューサーとして外部から入る仕事を受諾。更にそうした経験を生かして自身のレーベルを立ち上げ、自らの手でシーンを切り開こうと果敢に挑戦し続けた。自身のレーベルといっても、最近よくある自主制作のためのレーベルではない。自ら発掘したアーティスト、近しいアーティストを広く紹介していくための、プロデュース・レーベルである。特に自身のアーティスト活動を凍結していた93年からの5年間は、自ずと制作ワークが中心に。小室哲哉、小林武史と並んで“3TK”と称されることもあった。そうした裏方稼業が音楽職人:角松敏生の存在感を強め、耳の肥えたコア・ファンを獲得。自身のメガヒットなしに、揺るぎないロング・キャリアを築いてきた。
とはいえ、その知名度からすれば、こうしたワークス集企画は遅すぎたくらい。今までどうして出なかったのかが不思議である。でもそれには理由があった。ちょっと考えてみてほしい。角松敏生はその長いキャルアとは裏腹に、未だにデジタル・リマスター盤が出ていないのだ。
■NOBU CAINE「NOBU CAINE」CDブックレットより
Tokyo Ensemble Lab、NOBU CAINE、青木智仁、友成好宏。実力派プレイヤーたちにスポットを当てた。
ライヴでのMCやインタビューではしばしば発言しているが、彼が84年からの約10年間にリリースした楽曲の権利は、以前所属していた音楽事務所の管理下にある。ところが必ずしも円満独立ではなかったため、そのシコリが残って、自分の作品にも関わらず本人が自由に扱えない。これは88年にスタートしたプロデュース・レーベル:Om(オーン)作品も同じ。角松本人にとっても歯痒く、アンタッチャブルな状態が続いていたのだ。しかし、このオーン作品群を抜いては、角松敏生ワークス集を組むことはできない。角松作品にも何度となく参加していた百戦錬磨のトランペット奏者:数原晋率いるビッグ・バンド:Tokyo Ensemble Lab、斉藤ノブや村上ポンタ秀一らキャリア豊富なセッション・ミュージシャンが組んだNOBU CAINE、そして当時の角松を支えた重要バンド・メンバーの故・青木智仁、友成好宏のリーダー作など、シーンを影から支える実力派プレイヤーたちにスポットを当てたリリースを続けることで、自分たちの信じる音楽を強力発信。既存の音楽ビジネスに風穴を開けることを目的とした。角松敏生にとってのオーンは、プロデュース・スタンスを確立した極めて重要な時期だったのだ。だからそこにタッチできなければ、角松敏生ワークス集は成立しない。本来こうした企画やアイディアは、アーティスト周辺から出てくるもの。しかし彼らは権利上の裏事情を知るため、それを封印してきた。いわゆるコンピレーションを組む時、常套句のように「レーベルの枠を越えて…」というコピーが付くが、角松敏生の場合は、その文言以上に高いハードルがあった。
■青木智仁「DOUBLE FACE」CDブックレットより
■友成好宏「NATURAL SIGN」CDブックレットより
今回それを飛び越えたのが、この『GOOD DIGGER』である。大手リテール(タワーレコード)の発案だったのも手伝い、関係筋の気持ちがひとつにまとまったのだろう、紆余曲折はあったようだが、最終的にオーン音源から前述4アーティスト、曲数にして7曲の収録が決定した。それこそ事情通の角松ファンには、「遂に!」と言われてしかるべき大事件。そのうち2曲が本作disc1の冒頭2曲を飾るのも、なかなか粋な配慮だ。アルバム復刻にはまだまだ時間が必要らしいが、これが突破口になることを祈るばかりである。ちなみにスターターTokyo Ensemble Lab の「Lady Ocean」は、当時タバコのCMソングとして広く親しまれていた。
■Tokyo Ensemble Lab「Breath From The Season」CDブックレットより
■Tokyo Ensemble Lab シングル「Lady Ocean」
40年に渡って構築してきたレコード会社との良好な関係は、角松敏生にとって掛け替えのない財産。
そうした一方で、『GOOD DIGGER』だけが2枚組なのは何故?といった疑問も出るだろう。シンプルに説明すれば、それだけ関係曲が多かったということになる。でもこれも角松敏生独自の歩みに由来するもの。そう、彼はこれまでの40年間、一度も所属レコード会社を変えていないのだ。デビュー時からオーン設立までは、山下達郎も在籍したRCA/AIRレーベルに所属。凍結中の独立に伴って新たにiDEAKを創設しても、親会社はそのまま変わらなかった。RVC〜BMG(ビクター/ジャパン/ファンハウス)、そして現在のアリオラ・ジャパン/ソニーミュージックという変遷はあるにせよ、これらは会社組織の変更や合併などに伴う社名変更。角松敏生が別会社に移籍したワケではなく、実質はずっと同じメーカーに留まっている。だから彼の関連作はひと所に集まりやすいのだ。リスナーには発売元など関係ないが、アーティストには活動基盤となる重要事項で、絶対的安定が求められる。とりわけキモは人や組織の問題。レーベル移籍を繰り返せば、周囲のスタッフはその都度入れ替わる。角松みたいに独自の論理で周囲を扇動していくタイプのアーティストには、それをサポートする良き理解者たちが不可欠だ。40年に渡って構築してきたレコード会社との良好な関係は、角松敏生にとって掛け替えのない財産。これは業界広しといえども、ポップス系では角松だけである。
日本では音楽プロデューサーというとサウンド・プロデュースの意で捉えられることが多いが、本来は制作資金の調達や予算管理、スタッフ人事など、プロダクツ全体を統括する立場である。つまり金の計算ができて、ビジネスを動かさなければならない。音楽ファンには見えにくいが、角松敏生はその面でも業界内の信頼度が高い。例えばオーン時代の彼は、作品リリース時毎に全国の大手リテイラーやバイヤー、ディーラーから代表を集め、セールス拡大、新規ファン獲得の戦略会議を開催。普通はレコード会社の営業や販促部隊がやるべきことを、角松当人が陣頭指揮をとって動かしていた。プロモーションで地方のメディアを駆け回るアーティストは少なくないが、ユーザーに直接対面するバイヤーたちに応援団を形成したのである。そこまで突っ込んでマーケティング戦略に深く関わったサウンド・クリエイターを、自分は他に知らない。40年間の音楽キャリアだけでなく、その裏に横たわる地道な活動が潜んでいるからこそ、これだけ重量感たっぷりのワークス集が誕生したのだ。
杏里、西城秀樹、中森明菜~ジャドーズ、佐藤博。
シンガー・ソングライターからアレンジャー〜プロデューサーへ。
■杏里「Bi・Ki・Ni」
■杏里「TIMELY!!」
■杏里「COOOL」
そうした角松敏生の背景に横たわるユニークさ、熱意の迸りを心に刻んだ上で、改めて『GOOD DIGGER』をチェックしたい。まず杏里の楽曲が4曲あるが、彼女は角松敏生がシンガー・ソングライターからアレンジャー〜プロデューサーとステップしていく起点となった重要アーティスト。82年作『HEAVEN BEACH』に3曲書き下ろしたのを手始めに、『Bi・Ki・Ni』『TIMELY!!』『COOOL』の3部作を連続プロデュースしている。“夏女”“ダンス・ポップ”という杏里の今のパブリック・イメージを確立したのがこの時期で、角松との邂逅が杏里のキャリア・アップに繋がったのは疑いない。4曲中3曲は3部作からのチョイスだが、大ヒットした『悲しみがとまらない』のカップリングでアルバム未収の「Remember Summer Days」が入っているのが嬉しいところ。
西城秀樹、中森明菜ら歌謡曲寄りのシンガーが続くのは、このフィールドが最も制作資金が滑沢で冒険が可能、だから角松にもチャンスが巡ってきた、ということである。西城とはアルバム2枚に渡るコラボだったが、元々RCAのレーベル・メイトで同じディレクターだったご縁から。かの吉田美奈子との初コラボだった点もチェックしておきたい。明菜の場合は、アイドルからの脱却を狙った試金石的作品ゆえの角松キャスティング。その先にキング編『GOAL DIGGER』所収の中山美穂があるのはいうまでもない。明菜のアーバン・ファンク路線、ミポリンのハイ・エナジー、共に圧倒的なグルーヴ感と重厚な音圧で迫る様は、アイドル曲のセオリーを完全に逸脱している。でもそうした心機一転が、角松に課せられていたのだ。
もうひとつの試験場がジャドーズである。角松宅のポストに直接投函したデモ・テープが認められて86年にデビュー。『IT’S FRIDAY』『FREE DRINK』『A LIE』の3作をガップリ四つで制作し、角松の弟分的ポジションを獲得した。ジャドーズの成長は角松サウンドの進化と多分にリンクしていて、両者が大いに愉しみながら音の実験を繰り返した様子が浮かんでくる。彼らの曲は3曲収録された(『GOAL DIGGER』にも2曲)が、うち2曲がリミックス・バージョンなのも、このコラボの在りようを物語るようだ。
リミックスといえば、今は亡き大御所キーボード奏者:佐藤博(12年没)との「ANGELINE〜Extended Power Club Mix」もその好例。ティン・パン・ファミリーに名を連ね、アコースティック・ピアノ表現に定評を持つ名手で、角松自身何度も共演してリスペクトを示してきた。でも佐藤自身が宅録マニアで、日本アーティストとしていの一番にリン・ドラムを導入。シティポップ名盤『awakening』(82年)以降は、プログラミングを駆使した作風を貫いた。そうした志向が当時の角松と共鳴。佐藤のスペシャル・12インチ・リミックス盤でリミックス・プロデューサーを任された。早くから上の世代の大御所ミュージシャンらと積極的に交流していたが、そのキッカケが他ならぬ佐藤。そんな相手からのご指名は、角松に大きな喜びを与えたに違いない。
活動の凍結~AGHARTA。
93年初頭から約5年、自分の活動を凍結した角松敏生。その間にもいくつか大きなチャレンジを行なっている。そのひとつが、角松プロデュースによる新人女性シンガー中心のプロジェクト:VOCALAND。そしてその前哨戦が、2作連続でプロデュースを手掛けたトーキョー・パフォーマンス・ドール出身の米光美保だ。アイドルとしては破格の実力を持つ彼女は、本格派として売り出すべく、角松にプロデュースを依頼。そこで難易度が高い吉田美奈子の名曲「恋は流星」を歌わせたのは、『GOAL DIGGER』所収の今井優子「愛は彼方」と同じ発想で、NOBU CAINE「ソバカスのある少女」と並び、シティ・ポップ系先人へのリスペクトを感じる。ソロ・ライヴ『SPECIAL LIVE – ‘89.8.26』で明らかなように、はっぴいえんど再評価が世に勃発する以前から、角松敏生は彼らへの強い愛情を表明していた。
■米光美保 シングル「恋は流星 SHOOTING STAR OF LOVE」
そして米光との濃厚コラボの手応えが、きっと有望な若手女性シンガーたちを発掘・育成するVOCALANDの2作品に結実したのだろう。そこからのチョイスは、プロジェクトのキックオフ・シングルとなったsala、後にソロ・デビューしたAnnaと、今ではミュージカル・シンガーとして活躍している吉沢梨絵と角松のデュエットで、『VOCALAND 2』のハイライトとなった「NEVER GONNA MISS YOU」。タマラ・チャンプリン(元シカゴ:ビル・チャンプリンの奥様)のシャカタク・カヴァー、ポーリン・ウィルソンがフィリップ・イングラム(ジェイムス・イングラムの弟)とデュエットしたシーウインド名曲のセルフ・カヴァーは、VOCALANDの若手シンガーたちの楽曲に華を添えつつバラエティ感を演出する位置づけか。
もうひとつ、凍結中の角松敏生が起こしたアクションは、新たなプロデュース・レーベル:iDEAKの立ち上げである。オーンが影に回りがちなセッションマンたちに陽の目を見させるミュージシャン志向だったのに対し、iDEAKはよりトータライズされて幅広いアーティストに関わった。本盤収録の布施明、JIMSAKU、そして角松自身が参加した覆面プロジェクト:AGHARTAほか、新人やUSシンガーも。中でもAGHARTA「WAになっておどろう~ ILE AIYE~」は、NHK『みんなのうた』への採用、V6によるカヴァー、そして何より長野冬季オリンピックのセレモニー出演と、数々のエポックを生んだことはご存知の通りだ。
■JIMSAKU「DISPENSATION」CDブックレットより
■AGHARTA「REVENGE OF AGHARTA」
空前のシティ・ポップ・ブーム到来で、俄かに世代を超えて注目。
近年は音楽シーンの趨勢もあって、一組のアーティストをフル・プロデュースする機会は少なくなっているが、ツアーのバック・コーラスを担当したチアキと凡子の各初ソロ作は全面サポート。一方でベテランや名のあるシンガーを1〜2曲手掛ける機会も増えた。マーチンこと鈴木雅之のソウルフルな姉弟デュエットのプロデュースは、そうしたスペシャル・コラボの成功例である。
空前のシティ・ポップ・ブーム到来で、俄かに世代を超えて注目を浴びている角松敏生。特に海外からの視線に熱いモノがあるが、ソロ作品だけを追っていたのでは彼の魅力の深さは伝わらない。こうした外部ワークスでの成果がソロ作品にも反映されるし、コラボ作品から新しい発想が生まれることも珍しくない。角松敏生のように真摯なミュージシャンシップに裏打ちされたアーティストは、どんな作品にも自分の息遣いを吹き込んでいる。こうしたワークス集に触れることは、角松敏生を深読みしていくうえで絶対欠かせぬ行ないなのだ。
Text : 音楽ライター 金澤寿和
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中山美穂、今井優子、杏里、岩崎宏美、JADOES…etc.まで。
角松敏生が歴代で手掛けた様々なアーティストの名曲を時代やレコード会社の枠を超えてコンパイル!
角松敏生ワークス
-GOAL DIGGER-
2020年7月22日発売
品番: NKCD-6928
(タワーレコード限定販売/発売元:キングレコード株式会社)
価格: ¥2,600+税
CD 1枚組 (15曲収録)/2020年リマスタリング音源使用
歌詞付/角松敏生コメント掲載