ギャビ・アルトマン本人による
デビュー盤によせたエッセー
アーティストにとってアルバムは、人生のある期間が写った写真のような、ある種の物語、今はなき状況下で過ごした瞬間の思い出を表現するとよく言われる。私の場合、それとはかなり違った。初めてのアルバムとなる今作はどちらかというと、寄せ集めた写真のような、年月を経て積み重ね、時間をかけて作り上げられた、出会いや旅、たくさんの影響を受けた賜物。
2018年からNYを拠点とする作曲家、ジェシー・ハリスとのコラボレーションを重ね、レコーディングもパリとニューヨークで行われ、海を越えて実現した作品となった。仕上がりは"トリプル・ミックス"、音楽のジャンル的にはポップス、ジャズ、ラテン音楽それぞれの要素を含み、原語的には英語、フランス語、ポルトガル語、あとアラビア語も少し、そして様々な場所の要素が入っている。いくつかの異なる世界、そして複数の命、私の喜びと哀しみが交差する思い出だ。
また、自分の人生を振り返る作品でもあり、①「Buzzing Bee」や④「Une errante sur la Terre」など、こどもの頃からこよなく愛する伝統的なジャズ曲や、③「Lullaby」や⑩「Maladie d'amour」は大好きな南国の島やブラジルの音楽を彷彿とさせる(20歳からの2年間をリオデジャネイロで過ごした時、アンリ・サルバドール、ジョアン・ジルベルト、ガル・コスタを初めて知った)。
さらに作品は音楽と政治への関わりが交わる生き方も反映している。⑥「L'amour incompris + Azza Fi Hawak」は何年か前にスーダンのミュージシャンたちと歌で共演した際にスーダン人フルート奏者、Ghandi Adam/ガンディ・アダムに教えてもらった曲、⑭「La mer」は地中海地域の難民が直面している苦難を歌う。
もちろんアルバムにはニューヨークでのとても充実した日々も織り込まれている。出会いやたくさんの曲をジェシー・ハリスと共作、翻訳し、偉大なジャズ・ギタリストであるジュリアン・ラージとレコーディングした②「People Tell Me」もそのひとつ。曲では私の内なる思い、人類と自然の関係を詩的に問うた③「Lullaby」や千の岸辺という意味の⑤「Mille rivages」、自らの寂しい気持ちを歌い、作曲家オアン・キムの独創的なアレンジが気持ちを際立たせる⑧「Lonely」や⑫「Baby」など、あらゆる気持ちが表現されている。これら様々なサウンドの組み合わせが呼び起こさせるのは、普遍的な答えの探究や、夢に逃避するような質感なのだ。
ギャビ・アルトマン
(対訳 : 小袋僚子)
バイヤーさんから
応援コメントが届きました!
(敬称略)
ギャビ・アルトマンの名前を初めて目にしたのはディスクユニオン・ショップの入荷で輸入盤EP『Always Seem To Get Things Wrong』でした! 満を持してのデビュー・アルバム『ギャビ・アルトマン』が各所で好評のようで、コロナ禍以降のヴォーカル作品のマスタピースだと密かに思っています。
[ディスクユニオン 商品部 ジャズ担当 : 大野 哲]
ハッと目を惹く美しいジャケットに触れ、聴く前からゾクゾクするレコードに出会うことがあるが、パリ出身のシンガーソングライター、ギャビ・アルトマンのデビュー作もそう。ジャズやシャンソンを下敷きにブラジル~アフリカ音楽などのテイストを軽やかにまぶした豊潤なメロディに乗せ、憂いを帯びたメロウな歌声で綴る。ジェシー・ハリスによるプロダクションはここでも冴えていて、とりわけ親指ピアノをフィーチャーしたM③「Lullaby」、アンビエント・フレイヴァーなM⑤「Mille rivages」で彼女の歌声を素晴らしく引き立てている。
[ローソンエンタテインメント(HMV) 音楽・映像MD部 : 寺町知秀]
ジェシー・ハリスを共同プロデューサーに迎えた、フランス出身のジャズ・シンガー、ギャビ・アルトマンのデビュー・アルバム。英語、フランス語、ポルトガル語による楽曲を収録し、彼女の多彩な音楽的バックボーンを余すところなく伝えている。ポップでありながらもメランコリックな歌声、ジェシー・ハリスのハイセンスなアレンジ、さらには今大注目のジャズ・ギタリスト、ジュリアン・ラージもゲストで1曲参加するなど、ジャズファン必聴の作品。
[タワーレコード 商品本部 商品統括部 バイヤー : 千葉広克]