ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンド
『ノー・ニュークス・コンサート1979』に寄せて
*五十音順に掲載
五十嵐正 音楽評論家
(著作「スプリングスティーンの歌うアメリカ」「ザ・バンド全曲解説 」他)
この「ノー・ニュークス・コンサート」の前年、78年のブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドのツアーは、誰にも異論を許さないが、ロック史上最高のライヴ・パフォーマンスを繰り広げた歴史に残るものだった。そのツアー終了後、彼らは「ザ・リバー」となるアルバムの録音に取り掛かり、79年のほとんどをスタジオ内で過ごす。だから、その年に行なった唯一の公式コンサート「ノー・ニュークス」の二日間は、90分という通常の半分ほどの演奏時間に78年ツアーの激烈さが凝縮されたと同時に久々のライヴを楽しむ彼らの歓喜が溢れ、ブルースの長いキャリアの中でも非常に特別なコンサートとなった。加えて、彼が新たな歌の世界に足を踏み入れた曲<ザ・リバー>を初披露する重要な瞬間もとらえている。若き日のブルースは映像の収録に消極的で、当時のライヴ映像は数えるほどしか存在しないなかで、この貴重な映像が劇場映画用という最良の形で撮影されたことに、我々ブルース・ファンは本当に感謝するしかない。
喜久野敏和 元ブルース・スプリングスティーン担当
100Mを全力走って、すぐ400Mに突入し、息つく間もなくそのまま200M走。観ているこちらも一緒に全力疾走で肉体も魂ももっていかれるほど。明日のエネルギーはいらない、とまさに明日なき暴走の破壊力。洋楽邦楽ジャンル関係なしにロックファンなら絶対絶対見ておかないと一生後悔する宝物。
『BORN IN THE U.S.A.』発売時の制作担当者として、”今、全てを超えて感動のロックンロールを。”と商品帯に書いててよかったな、といまさら安堵。
甲本ヒロト ザ・クロマニヨンズ
吠えるマグマ大噴火。命知らずの暴走野郎。
なんだこれは! そうか! これがロックンロールか!
萩原健太 音楽評論家
どんなアーティストでもいちばん魅力的に輝いて見えるのは、右肩上がりで成長を遂げているまっただ中の姿だと思うのだけれど。そういう意味じゃ、このブルース・スプリングスティーン、やばいでしょ。とてつもないスピードで急成長を続けながら、まさに前人未踏のピークに到達する直前、的な? 常人のピーク・ポイントなど遙か超えた地点で、しかしなおさらなる頂をめがけて熱い疾走を繰り広げるスプリングスティーン&Eストリート・バンドの生々しいライヴ。くそー、やっぱりこの時期に見たかったなー。悔しいなー…。
浜野サトル 編集者
時空を超えて突き刺さるもの。映像半ばの「ジャングルランド」から迫り来るのは、1970年代の大都会の片隅に生きる者たちの魂の鼓動だ。歌と音楽を聴きながら、僕たちは目には見えないはずの、走り踊り苦闘する男たち女たちと出会う。なんというスリリングな体験だろう。スプリングスティーン&Eストリート・バンドのライブ・パフォーマンスに最初に惹かれたのは1974年のロキシー・ライブを収録したブートレグだったが、その5年後のこの夜の1時間半はそれをはるかに上回る。
ピーター・バラカン ブロードキャスター
映像という媒体が自分のライヴの熱さを伝えられないと敬遠していたブルースですが、これを見ると火傷をしまいとちょっと後ずさりをしてしまいます! ロックがいちばん熱かったころの貴重な記録です。
真島昌利 ザ・クロマニヨンズ
これは、凄い!
これは、凄い!!
これは、凄い!!!
最高のロックンロール!!!!
言葉が出ません。
ただもう笑みと涙が溢れ出て止まりません。
三浦久 フォークシンガー
初めて聞いた彼のアルバムは『明日なき暴走』である。アルバムタイトル曲を含むいくつもの歌の疾走感、躍動感に驚愕した。しかし今回1979年の『No Nukes』を見て思ったことは、スタジオではいくら頑張ってもこれほどの疾走感と躍動感を創り出すことはできないということ。このコンサートが『闇に吠える街』と『ザ・リバー』の間の出来事だったと知るだけでも、このビデオの凄さがわかるというもの。
『明日なき暴走』の大ヒットのあと『闇に吠える街』が出るまで時間がかかったが、運命のひとひねり、そのアルバムの対訳を依頼されたのである。訳しているうちに4作目にして初めて父親が登場するということに気づいた。それ以後、どのアルバムにも父親に言及する歌が入っていた。だから1997年の「トム・ジョード」ツアーの初日、彼に会ったとき、「あなたの父についての歌は実話なのかフィクションなのか」と聞いた。その問いに少し驚いた様子を見せながら、彼はただ一言autobiographicalと言った。
その日のコンサートで「ガルヴェストン・ベイ」が聞けなかったのが残念です」と言うと、「この後コンサートに来る予定はあるか」と聞き返された。「最後の日に行きます」と言うと、「じゃあ、その日、その歌を君に捧げるよ」と言った。半信半疑だった。でも彼は man of integrity、アンコールで、紙をみながらたどたどしい日本語で「ガルヴェストン・ベイ」を訳者の Hisashi Miuraに捧げますと言って、歌い始めた。対訳者にとって、それは最高の瞬間だった。
湯川れい子 音楽評論家/作詞家
これは29歳と30歳になった夜のブルースのステージだ。断片的に知ってはいたけれど、ここまでエネルギッシュだったとは!!
アルバム『ザ・リバー』のレコーディング中で、タイトル曲を語り部としてエモーショナルに歌う、こんなブルースは初めて見た。
口惜しいけれど、間違いなく最盛期だった時代のボスと、ビッグマン達が繰り広げた至高・最高の時間をまさか42年後の今、自分が生きているうちに見られて、本当に感謝しかない(感涙)
天辰保文 音楽評論家
天才とは、凡人が何百何千という言葉を費やしても語りきれないことをたった一言で語る人のことだと言われますが、凄まじいほどのパフォーマンスに圧倒されながら思ったのは、ここでのスプリングスティーンが正しくそうではないかということでした。ロックンロールに、青春や人生を、それどころか世の中で何が大切で何が大切でないのか、そんなことを含めてありとあらゆることを彼は語らせているからです。一切の贅言を弄せず、表情豊かに、そして力強く。彼の20代最後で30代最初のとき、それは同時にロックンロールの過去と未来がもっとも近づいた瞬間ではなかったかと、ふと、そんなことを思ったりもしました。