BALLADS of LOVE~ 100 Beautiful Songs logo

『バラード・オブ・ラヴ~100ビューティフル・ソングス』対談
山﨑稔久 (選曲・解説) × 能勢秀昭 (ディレクター) ※ Disc-2収録曲変更版

選りすぐりの美しい洋楽ナンバーを全100曲収録した5枚組CD『バラード・オブ・ラヴ~100ビューティフル・ソングス』。1970年代から2000年代まで、時代を飾った膨大なバラードから100曲を厳選した音楽ジャーナリスト・山﨑稔久。その100曲構成に汗を流したディレクター・
能勢秀昭。2人の共同作業を振り返る対談をお届けする。

時代も世代を超えた定番バラード曲であることが基本ですね (山﨑)
ロマンティックでソフトな男性ヴォーカル曲が多いのも特徴 (能勢)

── 『バラード・オブ・ラヴ~100ビューティフル・ソングス』が通販番組「QVC」をはじめとする多くのユーザーから好評を得ていますね。

山﨑  本当に嬉しいですね。時間をかけて苦労した甲斐がありました。ね、能勢さん(笑)?

能勢  いや~こちらこそご尽力に感謝です。苦労はお互いさまですね(笑)。

 

── ヒット曲、名曲、美曲……これ以上にないバラード曲の宝庫となりましたが、そもそもの定義はあったのですか。

山﨑  時代も世代を超えた定番バラード曲であることが基本ですね。有名なポップス、ロック、ソウル、R&Bの名バラードはもちろん、発売当時シングルカットされなかったナンバーも入っています。40歳代から50歳代前半に親しまれた1970~80年代初めにかけラジオやレコードなど日本独自で流行したAOR(Adult Oriented Rock)のバラードもたくさん収録しました。また、1990~2000年代に主にR&Bで大ヒットした美しいメロディを持つ“美メロ”ナンバーも収めています。

 

能勢  音楽の定義としては「ゆったりとしたテンポ」「美しいメロディ・ラインやハーモニー」「静かで感動をよぶアレンジ」「恋や人生に関する感傷的な歌詞」といったところです。ロマンティックでソフトな男性ヴォーカル曲が多いのも特徴的かもしれません。

 

── いわゆる「白」っぽいメロディと、「黒」っぽいメロウさがそれぞれのディスクのなかでも混在しているが面白いですよね。

山﨑  僕は音楽紹介を生業にしている性格からでしょうか(笑)、どうしてもある程度の時代やジャンル分けをしてしまうんですね。このCDもはじめは’70~80年代の「白」を意識して選曲していました。その中に必然的にAORを含むイメージですね。そんななかで明らかに「黒」っぽいものも入れましょう!と提案されたのが能勢さんでした。

 

能勢  僕はソウルやR&Bも好きなので、「黒」っぽいのも欲しくなっちゃったんです(笑)。今後もバラードのスタンダードとして残るようなR&Bも入れたいと山﨑さんに進言させてもらいました。バックストリート・ボーイズとか、アリシア・キーズとか、ジョイ・エンリケスとかですね。

 

── その結果、選曲に幅が拡がったわけですね。

山﨑  はい。さらにその結果、各ディスクのなかで文字通りジャンルのクロスオーバーが出来たんです。R&Bのジョニー・ギルの「マイ・マイ・マイ」なんかは、白人のサックスの貴公子・ケニー・Gのソプラノが入っていたり、とか。アル・ジャロウは「アフター・オール」……ということはジェイ・グレイドン共作のデヴィッド・フォスター繋がりで、チャカ・カーンの「スルー・ザ・ファイア」を同じディスクに配置したい、と。 また、こういう機会だからオーテス・ファン・シェイクの隠れた名曲「エヴリシング・アバウト・ユー」をリストに入れてみよう……なんて僕自身も楽しみが拡がっていきましたね。

 

── ディスク2収録曲の変更版にあたり70年代の名曲が散りばめられた選曲もグッと来ました。

山﨑  古いところだとジム・シールズとダッシュ・クロフツのデュオ=シールズ&クロフツの1972年発表の「想い出のサマー・ブリーズ」ですね。そのジム・シールズの実弟ダニー・シールズ=ダニー・シールズ=イングランド・ダンのジョン・フォード・コーリーとのデュエットで1976年に全米2位を記録した「秋風の恋」も名曲。70年代でいえば、個人的にお薦めはスティーヴとケリーのウィルソン兄弟=ウィルソン・ブラザーズ。1979年発表の唯一のアルバムでAOR名盤と言われて久しい『アナザー・ナイト』のラストを飾った「ライク・イエスタデイ」を収録できたのは嬉しかった。『アナザー・ナイト』のなかではトッド・ラングレンの「友達でいさせて」もカヴァーしていますが、その本家のトッド・ラングレン・ヴァージョンの「友達でいさせて」を選んでみました。Disc2なんかはそんな関連性も楽しんでもらえると嬉しいですね。

能勢  僕も知らない曲や忘れていた曲も教えて頂きましたが、このあたりの選曲と曲の流れは元『ADLIB』副編集長でもある山﨑さんに任せておけば心強く、安心でした。僕の仕事は、山﨑さんの素晴らしい選曲リストを、今回協力して頂いたユニバーサル ミュージックさんとワーナーミュージックさんと手前のソニーミュージックの許諾リストと照らし合わせながらそれぞれのディスクに振り分けていくことです。

 

山﨑  能勢さんの努力と粘りもあって普段はあまりコンピCDにはお目にかかれないシャーデーやノラ・ジョーンズも収録できたのは嬉しかったですね。

 

能勢  ノラ・ジョーンズは奇跡かもしれません。ユニバーサル ミュージックの担当者もびっくりしていましたから。

 

── 個人的にDisc4のなかで、アラン・パーソンズ・プロジェクト「ドント・アンサー・ミー」とJ.D.サウザー「ユア・オンリー・ロンリー」が一緒だったことが嬉しかったです。フィル・スペクター風味な胸キュン感というんでしょうか。

能勢  わかります。若い頃の甘酸っぱさというか、キュンってくる男ながらの切ないところを引っ張り出されるんですよね、このアレンジと……

 

山﨑  良いメロディでね!

 

500曲から100曲に絞ったのではなく、
100曲を選んだんです (山﨑)
ビューティフル・ソングスなのに
1000本ノックのボールに見えてきた (能勢)

── しかし、よくすんなりと100曲に収められましたね。

能勢  あ、すんなりじゃないです。何とか、収めたんです!

 

山﨑  最後はパズルだったんですよね?

 

能勢  はい。途中から企画営業部の大先輩Mさんから「QVCのお客さんや販売サイトに見た方にも分かりやすくなるように、なんとか潔く100曲にして欲しい!」と言われ、許諾状況と再生時間と睨めっこしながら、もう納期前に冷や汗が止まらない感じですよ。本当はビューティフル・ソングスなはずなのに、1000本ノックのボールに見えてきて(許諾が)取れない、ミット(CD盤)にはまらない!って。

 

山﨑  そんななかで僕が10ccの「アイム・ノット・イン・ラヴ」は絶対に外せないよね、とか言っちゃったりしてね。

 

能勢  よりによってなんでこの曲は6分と長いんですか!? ってあの時は失礼しましたっけ(笑)。

 

山﨑  そんなことはないけれど。それは僕に聞かれてもね。「アイム・ノット・イン・ラヴ」を作曲したのはエリック・スチュワートとグレアム・グールドマンだから、彼らに尋ねてもらわないとね(笑)。でも僕の中では、このCDは500曲用意した最初のリストから100曲に絞ったわけではなく、シチュエーションをイメージしながら100曲を選んだんです。そのことは能勢さんも共有してくれていたから信頼していました。確かに制作後半の激務な能勢さんの声、少し荒かったけれど(笑)。

 

山﨑  そうですね。5枚それぞれのジャケットにもあるように夜景を眺めながら男の子も女の子も少し背伸びをした頃と言いましょうか。ドライブデート中のカーステレオから流れてきた感じですね。僕はディスコだったらフロアで派手に踊るよりも、DJブースの横からチークタイムの曲を眺めている方が好きでしたから、そういうシチュエーションはイメージできましたね。若い頃から好きなバラード曲ばかり詰め込んだマイテープもよく作っていましたから、今回の選曲作業はあの頃の自分を想い出す時間でもあったかもしれません。

 

能勢  モテモテの?

 

山﨑  違う違う(苦笑)。フラれてばっかりでしたから。さっき能勢さんが男性ヴォーカル曲が多いと言ってましけど、名曲バラードは男がフラれた曲が圧倒的に多いんですよ。ハッピーな奴に美曲はかけませんから。恋愛の失敗談が美談になり良い歌詞を生み、引きずる気持ちが美しいメロディを生むんです。失恋の数だけ成長させる……あ、これモテない男の常套句ですけど(笑)。

 

能勢  言われてみれば、自分も中学の時からフラれた想い出ばっかりで、自分を慰めるために親父が買ってきたラジカセを自分の部屋に奪って、ひとりでエアチェックに励んでいましたね。だからメロウな失恋バラードが好きなのかもしれません。

 

ボズ・スキャッグスは快くシスコの自宅に招いてくれた (山﨑)
好きなアーティストの仕事は時間を忘れちゃいますよね (能勢)

── 山﨑さんは『ADLIB』編集者時代には、本作に収められたミュージシャンとも実際に取材でお会いしたこともあるのではないですか。

山﨑  そうですね。少なくはないですが……このなかで一番の想い出はボズ・スキャッグスの取材ですかね。2番目に好きなアーティストなんですが。じつは取材でボズのサンフランシスコの自宅を訪ねたことがあるんです。快く自宅に招いてくれて、嬉しかったですね。来日インタビューだと限られた時間のなかでどうしてもプロモーショントークになりがちじゃないですか、でもこの時は自宅ということもあって有意義な時間となりました。個人的にも大好きなミュージシャンのプライベート空間ですから、少し舞い上がっちゃいましたけど、ボズのちょっとした視線のやり場とか、そういうのが楽しかったですね。ここでは言えないけれど実際に会ってみたら印象が悪かったって人もいるけれど、ボスは実際に会ってますます好きになってしまう素敵な方でした。普段はちょっと面倒なインタビューのテープ起こしが楽しく楽しくて(笑)。3日ぐらい徹夜しても全然平気だった。

 

能勢  好きなアーティストの仕事は時間を忘れちゃいますよね。

 

山﨑  そういえば『ADLIB』時代に、ボズ・スキャッグスの16ページの大特集をやったことがあるんですよ。『アザー・ロード』(’88年)が出た時です。どこでもやるような軌跡やってもつまらないので、ここでマイテープを誌上再現したんです。僕はバラードばっかり入れたボズのカセットを作った。本作でも収録していますが「ウィア・オール・アローン」や「トワイライト・ハイウェイ」をちょうど46分テープに収まるイメージで。タイトルに私の(C)を入れました。『スローなボズにしてくれ』。

 

一同  (笑)。

 

── それはいいですねー。わかる人にはわかるタイトルですから。ちなみに山﨑さんが1番目に好きなアーティストも収録されているのですか?

山﨑  もちろんです。「アントニオの歌」の人です。マイケル・フランクス。僕の名刺にも、フランクスって入れてるくらい(笑)。マイケルは親日家としても有名で赤坂の日枝神社で結婚式を挙げたときに滞在したキャピタル東急のホテルの部屋で、Rainy Night In Tokyo「東京の夜は雨」(’83年)という曲も生まれています。

 

能勢  そうなんですね。

 

山﨑  日本がマイケル・フランクスに与えたインスピレーションは尽きないですよ。Meet Me In The Deerpark「鹿の園で逢いましょう」(’78年)っていう曲はそのまま奈良が舞台だし、それこそメジャー・デビュー・アルバムThe Art Of Tea『アート・オブ・ティー』(’75年)っていうのは、岡倉天心の『茶の本』からとったっていうのも有名な話だし、インタビューした時もやっぱりグリーンティー頼んでいましたね。あとChristmas In Kyoto……あ、すみません、もう止めてください(笑)。

 

洋楽バラードはヴォーカルの素晴らしさこそが
ダイレクトに響いてくる (能勢)
30年、40年経っても聴き続けられる曲が
100曲のなかにあったら嬉しい (山﨑)

── そもそも洋楽の魅力って英語歌詞に堪能ではないリスナーからしたら、まずは歌声、その次にメロディという音楽の本質的な聴き方にあると思うんですよね。

能勢  そうですね。特に洋楽のバラードは、歌詞の意味がすぐに分からない反面、美しいメロディとアレンジに耳が行きますよね。そして何よりもご指摘の通りそれを演じるヴォーカルの素晴らしさこそが、ダイレクトに響いてきますね。

 

山﨑  だから数々の恋のシーンを演出してくれたり、空想させてくれたり、記憶のBGMになったりもします。それで気に入った曲の情報がもっと欲しければ、僕が書いた全曲解説を読んでください(笑)。僕自身もあらためて再確認したこともありました。

 

能勢  きっと文字数が少なく書き足りなかったですよね。すみませんでした。

 

山﨑  いやいや。ブックレットに156ページ、充分だと思いますよ(笑)。

 

── 『バラード・オブ・ラヴ~100ビューティフル・ソングス』は山﨑さんというナビゲーターの5本のマイテープでもあって、時代を共有した洋楽リスナーへのロマンティックな贈りものでもあるんですね。

山﨑  そんなにキザなことをした覚えはないですが(笑)、確かにギフトには良いかもしれませんね。まずは、昔は大好きだったのに今は洋楽を全然聴いてないという大人になったリスナーに聴いてもらいたい。当時のことをパッと想い出して懐かしむのも良いし、そのあとの続きを想像しても面白いかもしれません。現在進行形で洋楽を聴いているリスナーの方には、気に入った曲があればそのアーティストのアルバムを聴いてみて欲しいですね。コンピレーションのなかで聴く時とはまた別の印象も抱くかもしれません。30年、40年経ってもずっと聴き続けられる曲がこの100曲のなかにあったら嬉しいですね。

*ディスク2収録曲の変更版にあたり、一部対談を追加取材し、リニューアル/再掲載いたしました。
インタビュー・文/安川達也(otonano編集部)

山﨑稔久

山﨑稔久(やまざき・なるひさ)

音楽ジャーナリスト。元ADLIB副編集長。

●1960年、長崎市生まれ。神戸国際大学卒業後、スイングジャーナル入社。23年間の音楽雑誌ADLIB編集部在籍時より、CDのライナーノーツ執筆や、テレビ/ラジオ番組の選曲・出演、アーティスト・プロデュース、イベントのMC/DJなどを担当。現在は、FMプログラム『 The Nightfly』(K-MIX)で構成の他、活動。

能勢秀昭

能勢秀昭(のせ・ひであき)

株式会社ソニー・ミュージックダイレクト
ストラテジック制作グループ 制作2部 ディレクター

●1989年㈱ディスクポート西武(㈱WAVE)入社。 ウェイヴ池袋店、渋谷店のジャズ・バイヤー、クアトロ店の立ち上げの後、㈱BMGビクターに転職。国内盤/輸入盤営業職を経て、クラシック/ジャズの宣伝を担当。その後はAOM制作部で『西城秀樹 THE STAGE OF LEGEND』(DVD BOX)を、洋楽コンピレーション/カタログのディレクターとして『FINE』シリーズ(REGGAE/FRENCH/JAZZ)、『RCA LATIN』 紙ジャケ、『COSMIC JAZZ FUNK』 紙ジャケなどをリリース。 2005年より特販/通販の制作担当となり、2009年SONY MUSICとBMG JAPANの合併後から現職。
プライベートではサッカー観戦&プレイ。サックスほか数種類の楽器演奏が趣味。

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