1978年のデビューより40年余にわたり、日本を代表するポップ・インストゥルメンタル・バンドとして第一線の活躍を続けてきたT-SQUARE。
結成よりただ一人バンドに在籍し続けたメンバー・安藤正容(g)が2021年夏のフェアウェルツアーをもってT-SQUAREを退団することが発表された。本企画はこれを受けてT-SQUAREの新旧メンバーが選曲に関わったボックスセットとして進められていたが、4月26日、「OMENS OF LOVE」「TAKARAJIMA」等の名曲を残した元メンバー・和泉宏隆(kb)が急逝。
和泉宏隆追悼の意を込めて、和泉参加のTHE SQUARE Reunion最後のステージを収めたBlu-rayディスク(2021年4月4日ブルーノート東京におけるライブ:初商品化)を追加しての緊急発売が決定した。
T-SQUAREの歴史上でも極めて重要な意味を持つメモリアルボックス。
T-SQUARE
Crème de la Crème
~Édition spéciale~
特別篇
@THE SQUARE~T-SQUARE
“1978~2021”作品集
2021年7月28日発売
¥18,000 (tax-in)
MHCL-10141~7
●収録曲(カッコ内出典アルバム)
DISC 1~6:SA-CD hybrid(音匠仕様)
DISC 1
安藤正容 作曲WORKS-1
- A FEEL DEEP INSIDE (LUCKY SUMMER LADY)1978*
- I'M WALKMAN (シングル)1980*【初CD化】
- TEXAS KID (MAKE ME A STAR)1979*
- TOMORROW'S AFFAIR (ROCKOON)1980*
- BANANA (ROCKOON)1980*
- IT'S MAGIC (MAGIC)1981*
- CHASE (MAGIC)1981*
- ハワイへ行きたい (脚線美の誘惑)1982*
- ADVENTURES (Epilogue) (ADVENTURES)1984*
- TRUTH (TRUTH)1987*
- DANS SA CHAMBRE (YES, NO)1988*
- CONTROL (NATURAL)1990
- FACES (IMPRESSIVE)1992
- 明日への扉 (HUMAN)1993
DISC 2
安藤正容 作曲WORKS-2
- 夜明けのビーナス (夏の惑星)1994
- CROWN AND ROSES (WELCOME TO THE ROSE GARDEN)1995
- MOON OVER THE CASTLE (ANDY'S)1996**
- JAPANESE SOUL BROTHERS (GRAVITY)1998
- FRIENDSHIP (FRIENDSHIP)2000
- DREAM WEAVER (GROOVE GLOBE)2004
- SURVIVOR (DISCOVERIES)2009
- HEROES (WINGS)2012
- I STAND ALONE (NEXT)2014
- NIGHT LIGHT (TREASURE HUNTER)2016
- LONESOME GEORGE (Live)
(HORIZON Special Tour~@BLUE NOTE TOKYO)2020 【映像商品より初CD化】 - ONLY ONE EARTH (FLY! FLY! FLY!)2021
DISC 3
和泉宏隆 作曲WORKS
- OMENS OF LOVE (R・E・S・O・R・T)1985*
- TAKARAJIMA (S・P・O・R・T・S)1986*
- FROM 03 TO 06 (Receivers) (うち水にRainbow)1983*
- SALAMANDER (SOLITUDE)1994★
- MIDNIGHT CIRCLE (NEW-S)1991
- TWILIGHT IN UPPER WEST (TRUTH)1987*
- WIND SONG (NATURAL)1990
- WHITE MANE (NATURAL)1990
- FORGOTTEN SAGA (R・E・S・O・R・T)1985*
- BEYOND THE DAWN (HUMAN)1993
DISC 4
則竹裕之 作曲WORKS
- TIME TO LANDING (DREAMS CAN GO)1999▲
- 勇者(YUH-JA) (B.C. A.D.)1996
- A DAY IN BLUE (SWEET & GENTLE)1999
- ONE STEP BEYOND (GRAVITY)1998
- TOOI TAIKO (BLUE IN RED)1997
- THE FOREST HOUSE (GRAVITY)1998
- DOOBA WOOBA!! (WAVE)1989
- HEAVEN KNOWS (SOLITUDE)1994★
- EUROSTAR~RUN INTO THE LIGHT~(2006 New Mix)
(WORDLESS ANTHOLOGY IV~Masahiro Ando Selection~)*
DISC 5
須藤満 作曲WORKS
- SHADOW (YES, NO.(CD))1988*
- SUNNYSIDE CRUISE (WELCOME TO THE ROSE GARDEN)1995
- 慕情~Longing~ (IT'S A WONDERFUL LIFE!)2018★★
- SCRAMBLING (SWEET & GENTLE)1999
- FROM THE BOTTOM OF MY HEART (BLUE IN RED)1997
- EXPLORER (GRAVITY)1998
- PIOGGIA DI CAPRI (B.C. A.D.)1996
- NAB THAT CHAP!! (NEW-S)1991
- MS. BRACING (GRAVITY)1998
DISC 6
坂東慧 作曲WORKS
- GOLDEN SPLASH (IT'S A WONDERFUL LIFE!)2018★★
- FLYING COLORS (33 (THIRTY-THREE))2007
- PARADIGM (SMILE)2013●
- CIRRUS (BLOOD MUSIC)2006
- LAST SCENE (TREASURE HUNTER)2016
- AI FACTORY (AI FACTORY)2020
- REBIRTH (REBIRTH)2017
- CHEER UP! (WINGS)2012
- NIGHT CRUISE (PARADISE)2015
- SCISSORS PAPER ROCK (TREASURE HUNTER)2016
*THE SQUARE
**ANDY'S
★T-SQUARE and FRIENDS
★★T-SQUARE & THE SQUARE Reunion
●T-SQUARE SUPER BAND
▲則竹裕之
DISC 7
[Blu-ray Disc]【初商品化】
約79分収録
The Last Live
2021.4.4 "THE SQUARE Reunion
-FANTASTIC HISTORY-
@Blue Note Tokyo~2nd stage~"
(これは生配信用に収録した素材を元に、音声に再ミックスを施した特別版です)
- 1. RISE
- 2. BIG CITY
- 3. CAPE LIGHT
- 4. PIOGGIA DI CAPRI
- 5. 勇者(YUH-JA)
- 6. JAPANESE SOUL BROTHERS
- 7. 宝島
- encore
- 8. TRUTH
THE SQUARE Reunion:
安藤正容 (g) / 伊東たけし (as, EWI, fl) / 和泉宏隆 (p) / 須藤満 (b) / 則竹裕之 (ds) / 白井アキト(kb)
Recorded live at Blue Note Tokyo, April 4, 2021
T-SQUARE Profile
1976年、安藤正容を中心に“THE SQUARE”結成。1978年CBS・ソニーよりデビュー。1989年、アメリカでの活動の際に使用していた“T-SQUARE”にバンド名を変更。デビュー以来幾つかのメンバー変遷を経ながら40枚を超えるオリジナル・アルバムをリリース。近年はアジア・欧米への音楽配信を通して世界中にファンを増やしている。2021年夏のフェアウェルツアーをもって、結成よりただ一人バンドに在籍し続けた安藤の退団が発表された。
T-SQUARE (2021):
(L→R)
安藤正容 Masahiro Ando (guitar)
伊東たけし Takeshi Ito (sax, EWI, flute)
坂東慧 Satoshi Bandoh (drums)
安藤正容Farewell Tour T-SQUARE Music Festival
2021年7月29日(木)大阪:Zepp Namba
2021年8月7日(土)東京:LINE CUBE SHIBUYA
出演:T-SQUARE ゲスト:河野啓三/THE SQUARE Reunion/センバシックス
詳細情報はT-SQUARE公式ウェブサイトをご覧ください。
www.tsquare.jp
0123456789.,
『安藤正容 作曲WORKS』の26曲は、自分自身の足跡というか、オリジナル・ヴァージョンを優先しながら選びました。僕の勝手な考えで入れた曲もあるのですが、自分の中では無意識に上手くバランスはとっていたと思います。(安藤正容)
1978年のデビュー以来、43年の長きにわたり活動してきたTHE SQUARE~T-SQUAREが今、一つの転機を迎えようとしている。その理由の一つが結成以来ギタリスト/コンポーザー/リーダーとしてバンドを牽引してきた安藤正容が2021年夏のフェアウェルツアーをもって退団すること。これまでの全てのアルバムに参加してきた唯一のメンバーであるだけに、ファンの驚きも大きい。そして元メンバーである和泉宏隆が去る4月26日に急逝したこと。また、約18年間キーボードやアレンジなどで大きく貢献した河野啓三が体調を崩したことから2020年に退団。これにより約15年続いた不動の4人体制も最新作『FLY! FLY! FLY!』では3人となった。さらに安藤の退団により、この秋からは伊東たけしと坂東慧のデュオ体制へ移行する。他の元メンバーたちも皆、第一線で活躍しているので、これからもTHE SQUARE、T-SQUAREの限定的なリユニオンは可能であろう。もちろん安藤正容のゲストとしての参加もあり得る。
そういうタイミングで制作された本作は、これまでの43年にわたる活動の集大成という意味合いを持つ。そして、本作の最大の特徴は6枚のCD(SA-CDハイブリッド)が作曲者ごとにまとめられていること。オリジナル・アルバムとは一味違う分類によって作曲者の個性が浮き彫りになり、それぞれの世界にどっぷりと浸かることができる。収録曲については、故人となった和泉宏隆はもちろん、それぞれ個別に協議を重ね、納得のいく選曲と曲順になっている。その結果、サウンドのカラーはスクェアの色に統一されているのだが、メロディや雰囲気には各人の味わいが感じとれる。これまでにはなかった、ちょっと通好みな鑑賞スタイルである。
それではCD6枚とBlu-ray1枚で構成されたこのメモリアル・ボックスの内容をご紹介しよう。6枚のCDは作曲者ごとにまとめられており、まずDISC 1とDISC 2が安藤正容の作品集。在籍年数が長いだけでなくバンドの初期は提供する曲数が一番多かっただけに、2枚でも足りないくらいだ。
「自分で26曲選びましたが、いろんな意味で難しかったですね。ライヴでよくやっていてお客さんの認知度が高いとか、盛り上がる曲とか、どうしてもそういう曲が中心になりますが、スタジオでレコーディングした当時それらの曲が上手く出来ていたかどうかとなると別の話になってくるんですよ。本当はこういう風にやりたかったとか、このヴァージョンは納得できないなあとか、いろいろあって後にリメイクした曲もありますからね。当事者としては当然、その方がクオリティーは高いと思うわけですが、その当時の勢いとか思い入れなど、自分自身の足跡というか、そういう意味合いでオリジナル・ヴァージョンを優先しながら選びました。そうは言っても、僕の勝手な考えで入れた曲もあるのですが、自分の中では無意識に上手くバランスはとっていたと思います」
「<I’M WALKMAN>は全く何も覚えていなかった。そのくらいレアな曲なんですよ(笑)」(安藤)
レア・トラックとしては初CD化の【1】②「I’M WALKMAN」、【2】③「MOON OVER THE CASTLE」、映像商品より初CD化の【2】⑪「LONESOME GEORGE(Live)」の3曲を含んでいる。
「<I’M WALKMAN>は、このボックスの企画を聞いた時にすぐ思いつきました。そういえば、この曲があったなと……。アルバムには未収録だったし忘れられているに違いないから、iTunesで検索しても出てこないだろうしね。僕自身もこの機会に聴き直してみましたが、当時のレコーディングについては全く何も覚えていなかったです。確かレコード会社からオファーが来て曲を書いて、歌モノだから鷺巣詩郎にアレンジを頼んでこうなった……覚えているのはそれだけ。そのくらいレアな曲なんですよ(笑)。<MOON OVER THE CASTLE>は元々、ゲーム音楽としてのオファーがあって作ったANDY’S名義の曲ですから、厳密に言うなら僕と難波(正司)君による作品に分類されます。スクェアでは<ナイト・ソング>というタイトルでキーもアレンジも変えて録音していますが、より多くの人がご存知なのはANDY’S名義の方だろうと思い、こちらを選びました。<LONESOME GEORGE(Live)>は曲自体も好きなので正規ヴァージョンでも良いのですが、このライヴ・テイクのハジけ具合が圧倒的に良かったのでこちらを聴いてもらいたいなという、僕のささやかな意思表示です(笑)」
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「21世紀になってからの変化は、ブルージーに歌い上げるギターに傾倒したことでしょうか」(安藤)
ご自身のギター・プレイの変化については、どんな感想を持ったのだろう?
「こうやって43年の流れを通して聴いてみると、初期の頃の自分のプレイはまだまだ発展途上だったなと思います。何をやりたいんだか、よく分かっていないプレイですね。みんなでワイワイとヘッド・アレンジして、その最中に仙波(清彦)さんやマイケル河合とか他のメンバーのアイデアに引っ張られてたりしてね。そういう面がちゃんとしてきたのは和泉君が加入してからかな。メンバーそれぞれのやるべきことの分担がきちんとしてきたわけです。ギターのテクニックやセンスについては、途中から自分らしさが現れてきたように思いますが、逆に今とあまり違わないなあと思ったりして……(笑)。あ、このフレーズは今も使っているし、僕ってあまり進歩していないのかな?とかね。年代順に通して聴くと、本人としてはそんな風に感じました」
そうはおっしゃるが、時代によってサウンドのトレンドは変われど、ちょっと翳りを含みながらも爽快な曲調とギター・プレイ。流れるようになめらかなソロ。これぞ完成された安藤節なのではないだろうか。
「なぜそうなったのか考えてみると、やはり自分の理想形みたいな基準があって、そこに達していればOKになるんですよ。でも、本当はそれを突き破ってもっと先まで行かないといけないのかもしれない。何かハプニングがあれば、例えばライヴレコーディングとかだとその場のムードなども含めて何かがハジけることがあるでしょ? そういうことが僕の場合、スタジオではあまりないのかもしれない。だから、どのレコーディングでもそこまでの基準でOKという状態で終わっているという感じですね」
43年という長い活動の間、スクェアのサウンドの変化に伴って安藤のギター・スタイルも変化していった。起承転結の練られたダイナミックかつ端正なソロ。凝縮された集中力。いつしか、それが安藤らしさとなっていく。
「やはり初期はリー・リトナー&ジェントル・ソウツみたいなジャズ・フュージョンがベースでしたから、長いインプロヴィゼーションがハイライトになったりします。80年あたりからはジェイ・グレイドンやスティーヴ・ルカサーのようなLAのスタジオ・ミュージシャンからとても影響を受けて、バンドでもきっちりしたアレンジの枠組みの中で16小節くらいの歌モノの間奏みたいなソロを任されることが多くなってきました。そうなると、16小節なんて一瞬で終わってしまいますから、そこに曲を盛り立てるようなフレージングで気持ちを込めなくてはならない。そこにはちょっとのミスも許されないし、アバウトなフレージングも良くない。常に新しいフレージングであったり、何よりもその曲に合ったモノでなくてはならないわけです。きっちりしたモノが好きだという僕の性格もありますけど、そんな風になっていきました。21世紀になってからの変化は、近年のラリー・カールトンやマイケル・ランドゥのようなブルージーに歌い上げるギターに傾倒したことでしょうか。チョーキング一発で存在感を醸し出すようなプレイに憧れますね。まあ、どうやったってあんな風になれるわけないですし、特にフレーズをコピーしたこともないのですが、好きなモノはそれとなく滲み出てしまうようで、それっぽいねと言われることもありますね(笑)」
(2021年7月1日 東京:ソニー・ミュージックダイレクトにて取材)
[後編]に続く
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和泉君は些細なことでキレる事が多かったですね。メンバーが譜面の指示と違うことをやったりするとマジで怒るんです。みんな凍りついて各自の楽器のチューニングに突入したりしてね(笑)。(安藤正容)
([前編]からの続き)DISC 3は和泉宏隆の作品集。こうして彼の曲を1枚に集めて聴いてみると、【3】①「OMENS OF LOVE」②「TAKARAJIMA」⑨「FORGOTTEN SAGA」をはじめ彼の手がけた曲がバンドにとって如何に重要な位置を占めていたのかが再確認できる。彼の楽曲やアレンジが、まだ混沌としていた時期のバンドの方向性を定めたのだ。
「和泉君を初めて見たのは、六本木ピットインでの北島健二のライヴでした。スクェアでは久米大作が辞める頃で、代わりのキーボード奏者を探していたんです。ロックもジャズもできる人、ということで久米君が推薦してくれたんだと記憶しています」
和泉宏隆の思い出は尽きないという。温和で社交的なイメージの彼ではあるが、こんな若い頃の意外な一面も紛れもなく彼だった。そこには音楽に対する厳しさを覗き見ることができるのではないだろうか。
「和泉君は些細なことでキレる事が多かったですね。彼の作曲してきた<OMENS OF LOVE>を初めてスタジオでプリプロで練習した時も、メンバーが譜面の指示と違うことをやったりするとマジで怒るんです。みんな凍りついて、各自自分の楽器のチューニングに突入したりしてね(笑)。まあ、人の集まりであるバンドだから、そういうこともありますよ。音楽的な意見の対立でケンカになりそうだったことはよくありました。みんなだんだん大人になって、そういうことも無くなっていきましたけどね」
当時のレコーディングは楽しく、バンドとしての一体感を最も感じることができた時代だった。何もかも便利になった現代とは違ってレコーディングの場所や時間にも制限があり、辛くはあったがとてもクリエイティヴな作業だったそうである。
「信濃町にソニースタジオがあって、そこでレコーディングしていた頃の話なんだけど、和泉君は山のような数のシンセを持ち込んで弾いていました。あの頃はまだシンセが1台?百万円とかした時代でお手軽な楽器じゃなかったんですが、和泉君は“男の60回ローン”をいくつも抱えながら頑張っていました。だから、1つ1つの音色に対する思いも強かったのではないでしょうか。スタジオではシンセのダビング作業も、メンバー全員で立ち会ってアイデアを出し合いながら夜中までやっていました。その場でシンセのフレージングや音色について、みんなでアイデアを出し合って考えていたんです。和泉君にセンスやテクニックがあったからこそ、その場でみんなの意見に対応しながら仕上げていくことができたんですよね」
「T-SQUAREもバンドとして、一旦リセットすることが必要だったのかもしれませんね」(安藤)
ツアーで全国を回っていた当時の思い出も数多くあるそうだ。近年はピアノに専念していた和泉がピアノとシンセを両立させていた時期のエピソードである。
「80年代になって僕たちも売れるようになってきて全国何十箇所もホール・ツアーをしていた頃の話です。連日同じステージをやっていると煮詰まってきますから、スクェアのコンサート・スケジュールは3日やると1日休みを入れるようにしていたんです。休みの日になると僕たちは映画を見に行ったりして気分転換していましたが、和泉君は遊びには加わらずに旅先でも必ずスタジオを借りて練習していました。あれは凄いなあと思いましたね。当時からピアノに対する向上心が半端ではなかったです。スタジオを借りる時もピアノの選定にはうるさかった。調律をお願いするのは必ず彼のお気に入りの人でしたし。もちろんバンドではマルチ・キーボード・プレイヤーとしてやっていましたが、自分にとって究極の表現の場はピアノ演奏だというこだわりがあったのでしょうね。あと、ライヴではアルバムにおけるシンセの音色やフレーズを同時に一人でやらなくてはならないですから、何台ものシンセをスプリットして音色を割り振り、両手で足りない時は足鍵盤まで使って再現していました。シンセ・ソロもフレーズが滑らかでオシャレなんですよ。ベンダーを使ったシンセのソロを、彼の影響で始めたという人の談話も後々よく聞きましたから、シンセに関するシーンへの彼の影響力はとても大きかったんですよ」
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長年バンドで行動を共にし、その多大なる貢献を安藤も認めた和泉がT-SQUAREを退団した時の状況は如何に?
「本田雅人が辞めるのと同時期でした。じつは和泉君の退団は本田君の退団と無関係ではないんですよ。本田君も和泉君に負けず劣らず音楽的な知識と演奏力を持つアーティストでしたから、バンド内での発言力はどんどん大きくなっていきます。言い方が難しいのですが、お互いにバンド内でのポジションが微妙なことになってきたわけです。そうなると行き着くところ、本田君はソロ・アーチストとしての道を歩むことになります。一方、和泉君も念願だったソロ・ピアノによるアルバムやコンサートが上手くいっていたので、独り立ちしても大丈夫かな?というタイミングだったんです。T-SQUAREもバンドとして、一旦リセットすることが必要だったのかもしれませんね。でも、僕はあの時、この先どうしていくか何のアイデアも無かったのに、ちっとも心配はしてませんでした(笑)」
「納得のいく、自分の息がかかった作品と呼べるベスト・アルバムは初めてのこと」(安藤)
さて、DISC 4は則竹裕之の作品集。ドラマーの視点からのスクェアとでも言おうか、人気曲【4】②「勇者(YUH-JA)」をはじめ溌剌とした曲が印象的だ。DISC 5は須藤満の作品集。明るくポジティヴな作風が、彼の人柄を想わせる。
そしてDISC 6は現在のT-SQUAREにおけるメイン・ソングライターと称しても過言ではない坂東慧の作品集。幼少期そしてアマチュア時代からファンとして長年、スクェアの音楽に親しんできただけに、もしかしたら安藤正容よりもスクェアらしい曲を書いているかもしれない。しかも現代風にうまくアップデイトされている。今後のT-SQUAREの作曲面を担う存在だけに頼もしい。そしてこのDISC 6こそが、坂東慧と伊東たけしによるT-SQUAREによる今後の新展開への期待を抱かせてくれる。
DISC 7は2021年4月4日、ブルーノート東京における“THE SQUARE Reunion -FANTASTIC HISTORY-”セカンド・ステージの模様をBlu-rayに約79分収録。和泉宏隆に特にフォーカスしたカメラ・アングルにはなっていないが、和泉が参加したT-SQUARE Reunionにおける最後のステージとして忘れられない映像作品である。これは生配信用に収録した素材を元に音声に再ミックスを施した特別版で、もちろん初商品化である。
ここで安藤正容にリーダーとしての自分を振り返っていただいた。お話を伺い、これ即ち人柄であり、そして音楽への接しかたなのだと納得した次第である。
「リーダー像というモノも多種多様ですよね。バンドにより、人により、いろんなリーダー観があっていいと思います。僕の場合は、バンドの象徴としての存在。スクェアの初期は曲を書く人が僕しかいなくて、音楽的に引っ張っていたというより、曲の素材を提供するというスタンスでした。そんなわけで僕が中心になっていましたが、スタジオ内を仕切って僕が権力行使の元に決断するようなことはなかったです。それより、みんなでアイデアを出し合ってアレンジを決めていく作業が好きでした。自分が思っていたのと全く違う曲になってしまうこともありましたが、想定以上のモノに仕上がったりすることもあって楽しかったんですよ。でも、もちろんリーダーとしての自覚も持っていました。なぜなら、バンドの作り出す音楽に対して責任があるからです。何か問題が勃発すれば対処しました。そんなスタイルになったのは、僕の音楽の原点がビートルズやモンキーズで、みんなで楽しく作っていくのが理想だったからなのでしょうね。でも、長く続けていると才能のある人が引っ張ることになったり、ビジネスが絡んで横槍が入ったりして、だんだんそうはいかなくなってきます。でも、どんな状況になっても、気心の知れたメンバーと一緒に音を出すのは至福の時です。こんなに楽しいことはありませんからね」
43年の歴史の中で、オリジナル・アルバムだけでも48枚にも及ぶ膨大なカタログの中から、斬新な手法でまとめあげたこのメモリアル・ボックス。聴き終えてからこみ上げてくる爽やかな後味が心地よい。作曲者ごとにまとめるというアイデア、そしてメンバー自身による納得の選曲。まさにT-SQUAREの歴史上、極めて重要な意味を持つメモリアル・アルバムである。
「これまでにも何度かその時点におけるベスト・アルバムが作られてきましたが、自分の気持ちを最優先して選曲したアルバムはこれまでになかったです。場合によっては知らない間に作られていたりしてね(笑)。だから、考えてみると今回のような納得のいく、自分の息がかかった作品と呼べるベスト・アルバムは初めてのことですよね。メンバーたちが自分で選曲したということは、そこに何か思い入れがあるわけです。そして結成45周年、デビュー43周年という時期にまたバンドの体制が大きく変わろうとしています。そんなタイミングにおける、メンバーそれぞれの思いが詰まっているのを感じ取っていただければと思います」(終わり)
(2021年7月1日 東京:ソニー・ミュージックダイレクトにて取材)
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