ライブレポート

藤井フミヤ 日本武道館
LAST COUNTDOWN PARTY
2018-2019

「ありがとう武道館。散らかしっぱなしでごめんなさい」(藤井フミヤ)
武道館へ感謝の思いを述べ、35年間変わらないメッセージで再会を誓い、 平成最後のカウントダウンライブは幕を閉じた。

日本武道館●2018.12.31
取材・文/大窪由香


 初めて日本武道館に足を踏み入れたのは、1992年12月26日。チェッカーズの解散コンサート“THE CHECKERS LAST TOUR FINAL”4daysの2日目。チケットが取れたのはこの1日のみだった。あの日の空が晴れていたのか曇っていたのかも思い出せない。記憶にあるのは、心の中と同じどんよりとした曇り色だ。六角形のフロアのセンターに設置された円形ステージの上で、絶不調で声が出ない中、それでも必死に歌い踊る藤井郁弥の姿と、「この借りはいつか返す」という言葉を忘れることはなかった。後日購入したファイナル公演のVHSで、涙で歌えなくなった「Long Road」を観て、チェッカーズとの青春はこれで終わったと実感した。

 チェッカーズは音楽の先生だった。チャック・ベリーにエディ・コクラン、バディ・ホリーやラヴィン・スプーンフル、エルヴィス・コステロ…etc.。子供だった私にとって、チェッカーズの音楽と、彼らが教えてくれた音楽は、どれも宝石のようにキラキラと輝いていた。この出会いがなければ、今頃私は違う人生を歩んでいたんだろうと思う。彼らが「映画『アメリカン・グラフィティ』のサントラ盤はバイブルだ」と言うから、それがそのまま私のバイブルになった。「ビートルズよりも、ずっと続けているストーンズの方がカッコいいんだ」と言う彼らがカッコいいと思っていたから、チェッカーズの解散を裏切りだと感じていたのかもしれない。

 解散から2年経ってリリースされた藤井フミヤの「TRUE LOVE」が嫌いだった。名曲だなと思えば思うほど、耳にするのが苦しくて意識的に遠ざかっていた。それから少し経った頃だったと思う。すでに夢中になっていた他のバンドの記事を読むために購入した音楽雑誌に、彼の記事が載っていた。たまたま目にしたところに「『TRUE LOVE』の歌詞はチェッカーズのファンのことだけを想って書いた」というようなことが書いてあった。“僕らは いつも はるか はるか 遠い未来を 夢見てたはずさ”とはそういうことだったのか、と、解散以来久しぶりに彼の言葉で大泣きした。またあの歌声を聴きに行きたいと思った。

 そしてまた彼のコンサートに足を運んだのも武道館公演だったと思う。どのツアーだったのかは思い出せないが、「紙飛行機」でステージと客席を隔たりなく楽しそうに飛び交う紙飛行機を眺めながら、自分の中の空白の時間を痛恨し、「タイムマシーン」を聴きながら、願わくば私は過去に戻ってこの空白を埋めたいと思った。

 それからはスケジュールが合えば時々観に行くようになった。日本武道館でのカウントダウンライブは、仕事で年末年始に実家に帰れず、一人寂しく東京で過ごすことになった時の救いの場だった。中でも印象深かったのは2013年。デビュー30周年に開催された全国ツアー“藤井フミヤ 30TH ANNIVERSARY TOUR vol.1青春”のスペシャル公演として、5年ぶりに行われたカウントダウンライブだ。公演の2日前に急遽チケットを購入したので、取れた席は北側。ステージの真裏の席だったのだが、ステージが限りなく近く、演者と同じ視界で武道館という空間を楽しむことができた。アニバーサリーイヤーということで、この日のセットリストの9割が、チェッカーズの曲で構成されていたのも感慨深かった。

 それから5年が経ち、2018年にデビュー35周年ソロデビュー25周年のアニバーサリーイヤーを迎えた。ファン投票による3枚組のベストアルバムを2作同時をリリースし、オールタイムベストといえるセットリストで全国ツアーを回った。そして12月31日、通算15回目となる平成最後の、そして2019年から改修工事に入る現状の日本武道館での最後のカウントダウンライブを行うという。幸運にもそのライブのレポート依頼を受け、記念すべき日を見届けることになった。


 2018年12月31日、東京・日本武道館。フロアのセンターには大きな円形ステージ。それを囲う360度の客席はアリーナもスタンドも満員。公演アナウンスが終わると、そこは期待感で今にも弾けそうだった。客電が落ちると同時に、観客が持っていたサイリウムの光が一斉に瞬く。拍手の中、バンドメンバーの大島賢治(Dr)、川渕文雄(B)、真壁陽平(G)、岸田勇気(key)、ラムジー(per)、そして藤井尚之(sax)が登場。ドラムのリズムに合わせて手拍子が沸き上がり、いよいよ藤井フミヤが登場した。ステージのセンターに立つと、マイクスタンドを頭上でクルクルと回した。それを合図に「P.S.マリア」がスタート。2018年を見送り、新しい年を迎える瞬間をみんなで迎えるこの公演にふさわしい幕開けだった。艶やかな歌声が会場中に広がった。「愛」では、レーザーの光と戯れるようにセンターステージで歌い踊るフミヤ。その姿はまるで宇宙の中を跳ねているようだった。続くアッパーチューンの「タイムマシーン」では同じ振り付けで一体感を誘う。「Hello! Welcome to 武道館。ようこそみんな武道館へ」。フミヤの軽快な挨拶の後、藤井尚之(sax)が奏でる爽快なイントロからチェッカーズのナンバー「Hello」へ。会場が淡いブルーに染まった「Blue Moon Stone」では、フミヤの伸びやかなヴォーカルと、バンドが生み出す心地よいグルーヴに酔いしれた。

 「今日は今年が終わる最後の瞬間と、来年新しい一年が始まる瞬間を一緒に過ごしましょう。この一年いろいろと大変だったと思うけど、ここにこうやって来てるってことがとりあえず良かったんじゃないかと。今日はみなさんの記憶に残るようなカウントダウンになるように、一緒に盛り上がっていきましょう」と語りかけると、「きっとみんなが聴きたいだろうなという曲を」と「Little Sky」へ。アコースティックギターの温かな調べと、柔らかな歌声が染み渡っていく。会場中に鳴り響くクラップの中、日常の機微を歌い上げた「夜明けの街」では、最後に「ラヴ&ピース!」とピースサインを掲げた。このサインは次曲のメッセージへと繋がる。

「明日は平成最後の正月になります。先日の天皇陛下のお言葉にもありましたが、戦争がなくて本当によかったと。戦争のない時代ってなかなかないですよね。次の新しい年も平和でありますように」と、自らギターをかき鳴らしたのは「I have a dream」。どんな境遇にあっても自由に愛し合えますように。そんな願いが込められたチェッカーズ時代の名曲だ。27年前に生まれたこの曲が決して色褪せないのは、その願いがいつの時代でも誰にとっても、パーマネントなものだからだろう。自然にシンガロングが沸き起こった。その余韻に浸りたいところだが、ステージ上はそんな余裕もないようで、「ドタバタしててよく分かんない状況ですが(笑)」と、進行状況を確認しながらバンドメンバーと顔を見合わせて苦笑い。

 そしてここで、2019年9月からオリンピックに向けて修復工事が行われることでしばらく利用できなくなる日本武道館での思い出を語り始めた。「今日がラストカウントダウンということで。オリンピックの修復のためにしばらく武道館が使えなくなるので、これを機にラストということです。武道館にはたくさんの思い出があります。チェッカーズもここで解散ライブをして、カウントダウンライブは1999年から。20世紀からやってます(笑)。すごい覚えているのは、チェッカーズの解散の時に外にたくさんのファンがいて、スタッフが気を利かせて武道館の扉を開けてコンサートをやったっていう、そんな思い出があります。懐かしい曲をやりましょう」と、「Cherie」「ミセス マーメイド」とチェッカーズの曲を続けて披露。解散コンサートの話からのこの流れは、やはり感慨深いものがある。

 それと同時に、あの頃から何も変わらない歌声とダンスパフォーマンスに驚嘆する。そして情景が鮮やかに浮かび上がるラブソングを2曲。ポップチューン「魔法の手」ではクラップに煽られるように華麗なターンを見せ、続いてミディアムナンバーの「映画みたいに」をじっくりと聴かせた。尚之がアコースティックギターを持ち、フミヤと同じセンターに並ぶと、中央のサークルが一段高く上がった。そこで奏でたのはチェッカーズのラブバラード「Long Road」だった。1コーラス目はフミヤと尚之の2人の音で。そして2コーラス目からはバンド演奏になる。円形ステージ、バンドメンバーは合わせて7人。26年前に見た光景がオーバーラップしてきて、思わず目頭が熱くなる。そして、過去を振り返るだけでなく、そこから今へと続く道のりを、美しいピアノの旋律とともに「Go the Distance」でしっかりと聴かせてくれた。ミラーボールの光が輝くフロアの中、ラストで大きく天を仰いだ姿が印象的だった。

 やがて客電がつき、壁面に現れたデジタル時計は5分前を表示していた。それを見てホッとしたように「間に合ってよかった!」と笑顔を見せるフミヤ。何やら落ち着かなかったのは、このタイミングにステージ進行を合わせるということにハラハラとしていたようだ。

 「2018年は大変お世話になりました。今年は35周年だったけど、来年もよろしくお願いします。今年はみんないろいろあったと思いますが、とりあえず武道館にたどり着いたということで、良かった!!」と感謝の気持ちを言葉にした後、「来年4月に平成が終わります。みなさんにとって素晴らしい一年になりますように。末長く、末長く歌っていきたいと思うので、みなさんよろしく。2018年の最後と2019年の始まりにみんなと一緒にいたことを覚えておいてください」と言ったところで、10秒前のカウントダウンが始まった。年が明けた瞬間、一斉に紅白の風船が会場を舞う。「新年明けましておめでとうございます!」と新年の挨拶をして「君が代」を斉唱。そして、バンドメンバー達とステージを駆け回りながら、ロックチューン「I・N・G」「GIRIGIRIナイト」を華やかに披露した。続く「REVOLUTION 2007」では、フミヤのブルースハープが炸裂。そしてハッピーチューン「Stay with me.」のラストで銀テープが舞い、ボルテージは最高潮を迎えた。

 「明けましたね、いつものごとく(笑)。ここからは時間にコントロールされることなく歌えます。改めまして新年明けましておめでとう!今年もよろしく。最後の曲になりました。35周年ということでツアーをやって、いろんなことを思い出せました。ステージの上で歌えていれば幸せなんだなと。どんな大きさでも、ステージという名の台の上で歌えるってことは健康だということで。私の人生は単純です。ステージという台の上で歌えていれば、藤井フミヤでいられるんです」と語るとラストソングの「ALIVE」へ。この曲はファン投票1位だったナンバー。愛すること、信じることの大切さを胸に、明日への一歩を踏み出す。新年の始まりを共にしたオーディエンスの背中を押すような、力強い歌声で本編を締め括った。

 鳴り止まないアンコールを受け再びステージに戻ると、ぐるりと周囲を見渡して「やっぱり円形って難しいよね。よくチェッカーズの時はやってたよね」と笑う。「さて、ほんとに始まるね、今日から。いろんなことがあるだろうけど、今年も頑張ろうぜ!それが人生だ。きっと愛がある(笑)」と力強いメッセージを放った後、「大切な歌を歌いたいと思います」と、「TRUE LOVE」を披露。感動もひとしおのところで、サックスとピアノによる「ONE NIGHT GIGOLO」のイントロが流れると会場から大歓声が上がる。そのまま歌に突入するかと思いきや、背後に木梨憲武の姿が。

 ♪KILL YOUの歌い出しの後、フミヤの頭をスリッパで叩く。昔、バラエティ番組で見た懐かしい光景に場内が沸いた。「武道館立ったのって、今の曲のノリオの時みたい」と木梨が言うと、「30年ぐらい前じゃない? 随分、“大人じゃ〜ん!”」と、フミヤがバラエティ番組でのフレーズを口にし、笑いを誘う場面も。「だいたい(正月は)ハワイにいるんだけど、フミヤが武道館に立たせてくれるっていうから帰ってきた」と言うと、フミヤ、尚之と共に「白い雲のように」「友よ」を熱唱。ビール片手にご機嫌の木梨はメンバーや観客にハイタッチしながらステージを降りた。「ラストカウントダウンということで、今日はありがとうございました。ラストといっても、できる時があったらまたやりたいと思います。その時はまた遊びに来てください」と希望ある未来を語ると、恒例のナンバー「紙飛行機」へ。

 「君の夢を乗せてステージまで飛んでゆけ!」というメッセージと共に会場内に配布された金と銀の紙の飛行機や、それぞれの思いを乗せた色とりどりの紙飛行機がステージに向かって飛んでゆく。ステージ周辺に集まったたくさんの紙飛行機を眺めながら、「ありがとう武道館。散らかしっぱなしでごめんなさい」と、武道館へ感謝の思いを述べた。そして「Come On!! Ohちゃん!!(第九)」と、全員で第九を歌い、大団円を迎えた。「またどっかで会おうぜ!また一緒に遊ぼうぜ!」と、35年間変わらないメッセージで再会を誓い、平成最後のカウントダウンライブは幕を閉じた。


 35周年アニバーサリーイヤーの集大成ともいえるこのステージで、円熟したパフォーマンスを見せつつも、その歌声は未だ瑞々しく、しなやかであった。清々しいほどに凛とした新年の空気を感じながら武道館を後にする。頬を刺す風は冷たいけれど、心はほっこりと温かい。26年前からしこりのように胸に残っていた「この借りはいつか返す」という言葉は、すっかり溶けてなくなっていた。35年間変わらず歌い続けてきてくれたことへの敬意と感謝を、改めて胸に刻む。そして、いつかまたこの場所で、あの歌声を聴きに行きたいと思った。

取材・文/大窪由香


藤井フミヤ
日本武道館 LAST COUNTDOWN PARTY 2018-2019
<<SET LIST>>

  • 01.P.S.マリア
  • 02.愛
  • 03.タイムマシーン
  • 04.Hello
  • 05.Blue Moon Stone
  • 06.Little Sky
  • 07.夜明けの街
  • 08.I have a dream
  • 09.Cherie
  • 10.ミセス マーメイド
  • 11.魔法の手
  • 12.映画みたいに
  • 13.Long Road
  • 14.Go the Distance
  • 15.君が代
  • 16.I・N・G
  • 17.GIRIGIRIナイト
  • 18.REVOLUTION 2007
  • 19.Stay with me.
  • 20.ALIVE

    encore
  • 21.TRUE LOVE
  • 22.白い雲のように
  • 23.友よ
  • 24.紙飛行機
  • 25.Come On!! ohちゃん!!

(日本武道館●2018.12.31 - 2019.1.1)