藤井フミヤ
『FUMIYA FUJII ANNIVERSARY BEST "25/35" 』
スペシャルインタビュー

これだけあれば駄作もあるし(笑)、
思い出がある曲もあれば忘れてしまった曲もあるし(笑)


── デビュー35周年/ソロデビュー25周年を記念して、ベストアルバム『FUMIYA FUJII ANNIVERSARY BEST "25/35" 』が発売されました。ファンのリクエストによる上位100曲をピックアップし、ファンの思いをストレートに反映したベスト盤になっていますが、その1位がライヴでの定番曲「ALIVE」(アルバム『PURE RED』に収録)というのは、フミヤさんはなんとなく予想はしていたのでしょうか?

藤井 そうですね。前にファン投票をやった時もそんな感じだったので、でも「なに、この曲」って曲なんですよ(笑)。それが逆にいいんじゃないですかね。

アルバム『PURE RED』1997年

── この曲はフミヤさんが弟・尚之さんに向けて書いた曲ということが、ファンの間では通説になっています。

藤井 それは、ずいぶん後になって言ったことで。この曲が人気になって、かみさんが「そういえばあの曲」って話になって、でも自分では忘れていて。ちょうどその頃、尚之が色々あって落ち込んでいた時期で、「頑張れ!」という思いを込めて歌詞を書きました。結果的に、みんなに元気を与える曲に育ってくれて、嬉しいです。

── コアファン以外の人は、今回の投票の結果だけを見たら「なんであの<TRUE LOVE>が8位なんだろう」と思いますよね。

藤井 でもそういうもんじゃないかな、きっと。ずっと聴いてくれているファンが選んでくれているから。

── 今回、ベスト10に「GIRIGIRIナイト」「友よ」という最新アルバム『大人ロック』からの曲がランクインしています。

藤井 嬉しいですね。ロックンロールなシンプルなアレンジというか、いい意味での単純さがウケたのかなとか、参考になりますね。元々ロックの中でも、ポップなロックが好きだったから、そうところが出ているアルバムなんでしょうね。

アルバム『大人ロック』2016年

── さて、35周年です。

藤井 よくここまで歌ってこれたという想いから、歌わせてもらったな、に変わってきますね。

── 年を重ねたということでしょうか?

藤井 ではなくて、聴いてくださいという気持ち(笑)。生かされたというか、延命治療を受けたというか(笑)。長かったといえば長かったし、自分の場合、活動休止とか休んだこととかほとんどなくて、休んだといえばチェッカーズを解散して、「TRUE LOVE」を出すまでの約10か月くらいですよね。

── そのモチベーションはなんですか?

藤井 ワーカホリックじゃないけど、やっぱり何かやっていないと退屈するんじゃないですかね。数年前に1回だけスタッフに、1年間休ませて欲しいって言ったことがあって。ツアーはやらなかったけど、結局色々なイベントに出て歌ったし、めちゃくちゃ働いてました(笑)。

── でも続けることが一番難しくて、しかもフミヤさんの場合第一線で活躍を続けていることが素晴らしいですよね。

藤井 残るということは本当に大変なことだと思う。他人事みたいに言っているけど、ここにきてつくづくそう思う。タモリさんが言っていたけど、長く続いている人のほうがおかしいって(笑)。特にポップスとかロックという世界は、ワーッと売れて、パッといなくなるのが普通だから、長くいるのは普通じゃないって(笑)。

── 動き続け、作品を発表し続け、でもその間に音楽業界ではCDがなかなか売れなくなったり、ユーザーの音楽を聴く環境も変わってきましたが、フミヤさんのスタンスは変わらずいい歌を歌い続けてきたという感覚ですか?

藤井 そうですね、あまり流行に乗ることもなく、いつ聴いても古くも新しくもない、スタンダードになりうる音楽というか、そういうものを常に目指してきました。

シングル「TRUE LOVE」1993年

── 1993年11月10日リリースの「TRUE LOVE」から、最新アルバム『大人ロック』まで、ソロデビュー後3つのレーベルからリリースした楽曲は全277曲という膨大な数です。

藤井 最初のポニーキャニオン時代は、全然ロックな人じゃん、みたいな感じでしたね。これだけあれば、駄作もあるし(笑)、思い出がある曲もあれば、忘れてしまった曲もあるし(笑)。

── こういう周年が5年に一回来るじゃないですか。ベスト盤もそうですが、そこで一瞬立ち止まって、後ろを振りかえる瞬間があると思います。そういう時は、次のオリジナルアルバムでは、まだやったことのない新しい曲とか、新しい作曲家にチャンスを与えて新しい空気を入れようとか、そういう違うことをやってみようという気持ちになったりするんですか?

藤井 今時の日本のロックに行く気は全くないですね。結局70年代とか80年代の感じを出しちゃうでしょうね。今の人達のロックバンドの形、ロックともいえない独特な感じがちょっとわからない。

── 逆に若い作家は、フミヤさんに歌ってほしいと思っている人がいると思います。

藤井 ウェルカムですね。シンガー・ソングライターではあるけど、自分で曲を作って歌わなきゃ嫌だっていうのはあまりないですね。

── それは昔からですか?

藤井 そうですね、いい曲は歌いたいという気持ちのほうが強い。歌詞はほとんど自分で書くけど、でもいい歌詞があったら歌いたい。

── 「歌い手」という捉え方ですか?

藤井 そうですね。

── 「歌い手」という自覚の濃度が、年々上がってきている感覚ですか?

藤井 上がってきていますね。ミュージシャンというよりは歌手と言いたい。

藤井フミヤ35th ANNIVERSARY TOUR 2018 “35 Years of Love”

── 9月からは「35th ANNIVERSARY TOUR 2018 “35 Years of Love”」がスタートします。何か特別な企画はありそうですか?

藤井 お祭りだと思うんですよね。もちろんバラードもアップテンポの曲もやるんですけど、ある意味アーティスト年齢35歳の藤井フミヤの歌のテクニックと、パフォーマンスと多少年齢老いたからこそ生まれる緩さと、そういうものを感じるしかないでしょうね(笑)。

── 毎年フミヤさんのライヴを観させていただいていますが、全くキーが変わらないですよね。そこも強いですよね。

藤井 変わらないですね。でも下げたほうがいい曲もあるので、そういう時は下げますが、なんでこんな高いキーで歌っちゃったのかなっていうのもあります(笑)。変わると楽器の音の響きが変わってしまうこともあるので、なるべく変えないで歌いたい。

── 変わらないキーの高さの歌が、昔からファンの人は、いつ聴いても同じ情景が想い浮かべることができます。

藤井 人間の耳ってそういう記憶力があるのか、キーが半音下がっただけでも、ちょっと違和感があるみたいですね。絶対音感を持っているわけではないのにね。アレンジも、今回はそこまでの変えないつもりです。

── セットリストはもう決まっているのでしょうか?

藤井 考えているところで、チェッカーズの曲もソロの曲を混在させるのがいいのか、それともチェッカーズとソロのコーナーを作るのか。今のところはミックスさせた構成のほうが面白いかなと思っています。

── ラストは恒例の大晦日、日本武道館でのカウントダウンライヴです。ちょっと早いですが、来年の構想を教えて下さい。

藤井 来年はオリジナルアルバムを作ろうと思っていて。もう曲を集めています。今インディーズなので、今のうちから言っておかないとね(笑)。もちろんライヴも結構やろうと思っているので。

── オリジナルアルバム楽しみです。大きなテーマとしては“大人ロック”ですか?

藤井 今はそんな感じです。大人ぶったしっとりしたのは出さないと思います。まだそんなに落ち着きたくないというか、しっとりしてもしょうがないし、しっとりした曲はもうたくさんあるからね(笑)。

インタビュー・文/田中久勝