かの香織
ベスト・アルバム発売記念
スペシャルイベント
ライブレポート
文/田中久勝
写真/島田香
●かの香織[CAOLI CANO SPECIAL LIVE ーdigest editionー]
1980年代、伝説のニューウェーブバンド・ショコラ―タのボーカリストとしてキャリアをスタートさせたかの香織。91年にソロ活動をスタートさせ、昨年12月21日、シングル曲を中心に構成した集大成的ベストアルバム『CAOLI CANO COLLECTION~BEAUTIFUL DAYS~』発売した。その購入者特典のスペシャルイベントが2月3日、東京・紀尾井町サロンホールで行われた。宮城・はさまや酒造店の第12代当主として、2003年から日本酒造りを始めたかのは、この日が約10年振りのライヴとなった。
会場でははさまや酒造店の日本酒が振る舞われ、お酒が飲めない人には日本酒の仕込み水を使ったリンゴジュースが用意され、集まったファンはリラックスした空気と空間で、かのの登場を待った。ピアノ鶴木正基とギター今堀恒雄と共に大きな拍手に迎えられ、かのがステージに登場。オープニングナンバーは「Familia」。優しいメロディのバラードを歌うかのの声は、アンニュイさとコケティッシュさを感じさせてくれる。その変わらない声の表情がすぐに独特の空気感を作り、会場を包む。
場所も当選者のみに知らされ、まさにかのとファンとの約10年振りの“密会”だ。かのは感慨深げに「特別な日になるといいな」と客席に話かける。その特別な日に、はさまや酒造自慢の金粉入りの搾りたてと発酵中の日本酒を用意し、全員で乾杯し再会の歓びを分かち合う。
94年のヒット曲「青い地球はてのひら」を歌い始めると、客席では涙を流すファンも。かのの柔らかな声が一瞬にして時間旅行にいざなってくれる。ベスト盤『CAOLI CANO COLLECTION~』は新たにレコーディングした作品が3曲収録されている。そのうちの一曲、牧野由衣に提供した「AMRITA」のセルフカバーには、奄美大島出身のシマ唄シンガー・里アンナがコーラスとして参加しているが、この日はゲストで里が登場し、披露。続いて里が奄美ではお祝いの席で歌われるという「長朝花」を歌うと、その凛とした、でも柔らかな歌声が、一瞬にして奄美の風を運んできてくれる。
かのは1757年創業の宮城の老舗酒蔵・はさまや酒造店の第12代当主として、2003年から酒造りを始めた。しかし音楽もずっと作り続けている。「音楽もお酒も共に命あるもの」と両方と丁寧に“向き合い”、良質な音楽とお酒で多くの人の心を潤している。
アーバンな雰囲気の名曲「午前2時のエンジェル」は、ピアノとギターのアコースティックな音と歌が、よりメランコリックさを際立たせる。「純粋な頃を思い出すために、3歳の時の写真をよく見返す」と語り「Beautiful Days」を歌い始めると、オーガニックな音にたゆたうように歌うかのの声が、豊潤な時間を作り出していた。
「人前に出るより曲を書いている方が性分に合っているので、今日は忘れられない日になりました」と、久々のライヴをファンと共に心から楽しんだかのが、最後に選んだ曲はベストアルバムの中でもセルフカバーしている「ばら色の人生 ピアノヴァージョン」。アンビエントな佇まいの曲を透明感溢れる歌声で歌うと、美味しい日本酒を口にした時のように心に体に“沁みる”。客席に感動が広がっていく。「これからも心に残るような音楽をやっていきたい」と改めて表現者としての思いを語り、ステージを後にした。これからもシンガー・ソングライターとして、ソングライターとして、そして日本酒を生み出すクリエーターとして、上質な音楽と酒を“醸し”続ける。