落語 みちの駅

第百三十一回 「第227回 朝日名人会」
 2023年3月18日14時より、第227回朝日名人会。あいにく彼岸の雨が降り続く寒い休日でしたが、満員に近い盛況で、朝日名人会もこの日は先陣を切ってコロナ禍を脱しつつあるようです。

 二ツ目は柳家緑太「佐々木政談」、真打が入船亭扇辰「夢の酒」、金原亭馬生「今戸の狐」、そして中入り後の一席に柳家権太楼「たちきり」。

 緑太さんの「佐々木政談」は爽やかにして鮮やか。現代若手流と正統派流が絶妙にシンクロしました。それはいわゆる言うは易しでありまして、近年ワイワイとはしゃぐオフザケ主体の若手には生涯達成不能の領域です。ますます精進を。

 入船亭扇辰さん「夢の酒」は、おなじみのネタですが、演者に人を得て楽しめました。扇辰さんはどんな噺にも自分ならではのアングルが持てる人であり、また味にたとえれば、渋味を利かせて甘味に溺れない噺家魂のたしかな人です。三人の登場人物が、それぞれじつにおもしろかった。

 若手中堅二人の直後に、ベテランの馬生さんに「今戸の狐」を頼んだのは結果的に意地悪めいていたかもしれませんが、渋い出番を淡々とこなしてくれました。近頃の現代風古典落語では聴かれないゆったりと我が道を行く持ち味。今の落語に不足している古典落語の味わいをしっかり保ちつづけてほしい人です。

 柳家権太楼さん「たちきり」は、病後の高座とは思えない熱演でした。花柳界の悲劇で泣かせる噺を徹底的に人間ドラマ化した演者のパワーは大したもので、噺は現代の恋愛悲劇に大きく近付き、40分の長丁場をしっかり「ドラマ」にしたのでした。

第百三十一回 「第227回 朝日名人会」
柳家緑太「佐々木政談」


第百三十一回 「第227回 朝日名人会」
入船亭扇辰「夢の酒」


第百三十一回 「第227回 朝日名人会」
金原亭馬生「今戸の狐」


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著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。