落語 みちの駅

第百二十二回 「第217回 朝日名人会 レポート」
 第217回朝日名人会がさる3月19日に開催されました。

 出演者と演目は、秋に真打昇進が決まっている春風亭一蔵「短命」、真打陣は入船亭扇辰「一眼国」、三遊亭歌武蔵「花筏」、中入り後に柳家さん喬「百年目」。開演時は初夏を思わせる晴天、終演時は大雨模様で春の嵐のような一日でしたが、お客の足が戻ってきて盛況だったのは嬉しい限りでした。

 一蔵さんにはっきり真打のパワーが見られたのは大収穫でした。昇進一年ほど手前で高座ぶりが上がる若手が以後数年のホープになる。それが何年に一度クラスのドラマです。十年以上前の兄弟子・一之輔の姿がダブりました。

 扇辰さんの「一眼国」はごくふつうに見世物さまざまから入り、しかも短時間の高座ですませると言いつつ噺の奥へ奥へと誘う、ベテランの知恵をたっぷり聴かせてくれました。聴き手を操るコツを知っていればこそのことで、ギャグの多発で笑いをとるだけの若手は見倣うべしです。

 三遊亭歌武蔵さんは大阪の春場所中に相撲ネタを出して、しかもなまなましい相撲噺にはしませんでした。もと力士のキャリアを逆に少し薄めていたのは、これもまたベテランの域であることの証明でしょう。

 柳家さん喬さんの「百年目」は誰しもが期待する人情噺型大ネタの長演で五十分に迫りました。最近のさん喬さんらしい抒情的な「百年目」で説教臭さが脱けてきました。これほど人間味あふれる旦那であれば番頭もまた涙にくれて最後の御奉公を誓うのでしょう。

第百二十二回 「第217回 朝日名人会 レポート」
春風亭一蔵「短命」


第百二十二回 「第217回 朝日名人会 レポート」
入船亭扇辰「一眼国」


第百二十二回 「第217回 朝日名人会 レポート」
三遊亭歌武蔵「花筏」


★今月の朝日名人会映像公開中!!★

オンラインクラブ『らくご来福』では、毎月、朝日名人会最新映像を京須偕充プロデューサーの特別解説テキストとともに公開中です。今月の一席は「短命/春風亭一蔵」。ぜひ、ご覧ください。


第百二十二回 「第217回 朝日名人会 レポート」↑↑↑↑らくご来福公式サイトはこちら↑↑↑↑


著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。