私が欲しいレコード
幻の名盤から架空の一枚まで。今聴きたい、今欲しいレコードを、各界のレコード愛好家のみなさまに、自由な発想で綴っていただきます。
第23回【堀江博久】 ミュージシャン
曖昧でなんとなくでも、アーティストが詰め込んだ作品を、なんか自分のものに出来るっていう、このうれしい感じが、レコードにはいっぱい詰まっている。
なんであまり聴かないのに買っちゃうんだろう。レコードにまつわるバカげた話はいくらでもできる。ストーンズのケーキのジャケット、B面の3曲目最高だよね。とか。聴いたことないけどそのジャケット知ってるよ、とか。曖昧でなんとなくでも、アーティストが詰め込んだ作品を、なんか自分のものに出来るっていう、このうれしい感じが、レコードにはいっぱい詰まっている。最近は、聴きたいレコードがあっても、他のレコードが邪魔で取り出せないことがよくあって、それを救い出そうとすると部屋が大変なことなるので、本当に聴きたくなったら、持っている友達の家に行くか、知り合いのお店にそのレコードを聴きに行く。それはそれで、誰かと一緒に聴けて楽しいし、やっぱいい曲だなって思ったら後日、同じ曲が入ってる別のレコードをまた買って帰って、しばらくすると部屋のどこかに埋もれてしまう。洋服だとそんなことないし、食べ物だと食べるからなくなるし、あきれる人もいるかもしれないけれど、わかってくれる人もどこかにいるはず。こんなことに興味のない人は、おそらく音楽でも分かり合えることもないな。このなんとも言えない微妙な雰囲気や距離も含めて、レコードはとても魅力的な物(モノ)なのです。
僕が欲しいレコード。今すぐ聴きたいんだけど、すぐにレコードが取り出せないこともあって、60年代、70年代と、史上最高のロックなキーボーディストであり、偉大なるセッション・マン。ニッキー・ホプキンスが、数多くのセッションでプレイした作品を、一枚のレコードで聴きたいなと思いました。
ニッキー・ホプキンスは、60年代にロックとファッションで盛り上がった、ブリティッシュ・インヴェイジョン、スウィンギン・ロンドンのシーンから、ザ・フー、ザ・キンクスのアルバムに参加。ザ・ローリング・ストーンズの名曲の数々や、ザ・ビートルズのシングル、解散してからもメンバー全員のソロにも参加しているのは、本当にすごいとかしか言いようがない。そして、69年米国サンフランシスコに渡り、スティーヴ・ミラーとの出会い、ジェファーソン・エアプレインではウッドストックに出演。その後ジョー・コッカーやジェリー・ガルシア・バンドで活躍。今回の選曲から外れた、数多くのアーティスト作品の中からも、一度聴いたら忘れることない、とても印象的なキーボードプレイを聴くことができる。ソロ名義の作品も何枚かあって、ライ・クーダーやストーンズのメンバーとセッションした『Jamming with Edward』、本人の歌声が聴ける名盤『The Tin Man Was a Dreamer』はジャケットも含めて最高です。
ニッキー・ホプキンスのピアノは一度聴くと絶対に耳に残る。いわゆるロックなピアノそのもの。レコードから聴こえてくるオリジナルなプレイは、楽曲にしっかり溶け込んでいるというか、初めて曲に触れた衝動や喜怒哀楽が、リズムに絡みながら、ダイレクトに音やフレーズの中にたくさん出てくる。実際、活動していた時期は20数年しかないのは驚きで、僕はついに彼が亡くなった年齢をこの前追い越してしまった。B面の最後に入れた、ポール・マッカートニーによる「The Days is Done」は89年の作品。ずっとポール本人が弾いていると思ったら、実はニッキー・ホプキンスが弾いていた。歌詞を読みながら、今回この企画でこの曲に出会えて本当にうれしかった。人生あっという間。音はきらきら。いつまでも輝き続けている。
Nicky Hopkins / Session Man
SIDE A
Revolution / The Beatles
She's A Rainbow / The Rolling Stones
Session Man / The Kinks
The Ox / The Who
Voluteers / Jefferson Airplane
Kow Kow Calqulator / Steve Miller Band
SIDE B
Jealous Guy / John Lennon
Give Me Love (Give Me Peace on Earth) / George Harrison
You’re Sixteen (You’re Beautiful, You’re Mine) / Ringo Starr
Tore Up Over You / Jerry Garcia
You’re So Beautiful / Joe Cocker
That Day Is Done / Paul McCartney
- 堀江 博久
- 鍵盤弾き。国内外問わずさまざまなアーティストとのセッションを行い、一方で、自身が曲を書き、歌うNEIL AND IRAIZAを1995年に結成。並行して、SINGER SONGER、PUPA、the HIATUSなどのバンド活動も行ってきた。2013年自身のソロ活動としてアルバム『At Grand Gallery』を発表したほか、近年は、CORNELIUS、高橋幸宏、CARAVAN、カーリージラフ、カジヒデキ、LOSALIOS、木村カエラ、MANNISH BOYSなどでプレイ。キーボーディストとしてだけでなく、プロデューサー、アレンジャーとしてアーティストからの絶大な支持を得ている。
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