落語 みちの駅

第百二十一回 「第216回 朝日名人会 レポート」
 第216回朝日名人会が1月15日午後2時から行われました。終演は午後5時。

 古今亭始「黄金の大黒」、春風亭一之輔「七段目」、古今亭志ん輔「お若伊之助」、五街道雲助「品川心中(全)」。

「黄金の大黒」は昭和50年頃にはよく耳にした噺です。近頃では運びに似たところがある「普段の袴」に押され気味のようです。師・古今亭志ん輔の小気味よい語り口をよく継いでいて先行きが楽しみです。

「七段目」は昭和30年代には東京ではあまり演じる人がいなかった噺でした。その時分からこの噺にひそむおもしろさを多くの演者が少しずつ掘り出した結果が今日この噺を人気落語に育てました。一之輔口演は芝居情緒にあまり頼らないやり方で噺の魅力を高めてくれました。器用さもこの人のパワーです。

 古今亭志ん輔「お若伊之助」はこちらからの依頼の演目。師・志ん朝の高座に漂っていた情話の側面を少し控えて鳶頭初五郎のオッチョコチョイぶりに重点を置いていました。沈着冷静な長尾一角との対照もたしかで、狸の子を宿す“非科学性”の言い訳に変に踏み込まなかったのは賢明でした。

 五街道雲助「品川心中(全)」はこの師匠だからこその高座で、珍しい「下」まで通すことに意味があるなどと妙に力まれても困るわけでして、「品川心中」通し口演で成功する演者というものは、やはりどこまでも「上」でたっぷりウケる演者が余力で味わい深く聴かせるネタなのでしょう。円熟の高座でした。

第百二十一回 「第216回 朝日名人会 レポート」
古今亭始「黄金の大黒」


第百二十一回 「第216回 朝日名人会 レポート」
春風亭一之輔「七段目」


第百二十一回 「第216回 朝日名人会 レポート」
古今亭志ん輔「お若伊之助」



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著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。