私が欲しいレコード

幻の名盤から架空の一枚まで。今聴きたい、今欲しいレコードを、各界のレコード愛好家のみなさまに、自由な発想で綴っていただきます。

第21回【高浪慶太郎】 ミュージシャン
第21回【高浪慶太郎】 ミュージシャン

スタン・アップルバウムは、まさにアメリカン・ポップス黄金期の当事者。バート・バカラック、筒美京平と並んで私が多大なる影響を受けた編曲家の1人である。



 私が欲しいレコード…ぱっと思いついたのがスタン・アップルバウム楽団の『ハリウッド・ガールズ』。というのも、たまたまではあるが、つい最近このアルバムを探していたのだ。ジャンル的にはイージー・リスニングで、内容は映画のサウンドトラックの有名曲をアップルバウムのアレンジで演奏したもの。1963年の作品である。'63年といえばビートルズらイギリスのビートバンドがアメリカを席巻する、いわゆるブリティッシュ・インヴェイジョンの前年で、スウィートでドリーミーなアメリカン・ポップスの終焉の年でもある。

 アップルバウムはニュージャージー生まれのピアニスト、作曲家、編曲家、指揮者で、とくにオーケストレーションのアレンジが得意だったようだ。当初はジャズの編曲家としてスタートしたようだが、50年代後半頃からは、ポップスの世界でも大活躍。私が彼を認識したのも、ストリングスを使用した最初のR&Bレコードと言われているドリフターズ(アトランティック・レコードの黒人コーラス・グループ)の「ゼア・ゴーズ・マイ・ベイビー」('59)や、アメリカン・ポップスの女性シンガー、ジョニー・ソマーズの一連のヒット曲だった。ドリフターズを抜けたベン・E・キングの「スパニッシュ・ハーレム」('60)や「スタンド・バイ・ミー」('61)、その他コニー・フランシス、ニール・セダカ、ボビー・ヴィントン等、25以上のトップ10ヒットレコードに携わっている。まさにアメリカン・ポップス黄金期の当事者だ。

 アップルバウムの特徴は、ジョニー・ソマーズの「内気なジョニー」('62)(作詞はバート・バカラックの相方だったハル・デヴィッド)のイントロで聴かれるコロコロと転がるようなピアノのフレーズや、ドリフターズの多くの曲で聴かれる、ヒィーヒィー鳴くような高音域での速いパッセージのストリングス等。この『ハリウッド・ガールズ』でも随所でその特徴が聴かれるのが嬉しい。中でも映画『日曜はダメよ』の主題歌「「ネヴァー・オン・サンデー」のアレンジは非常にユニークだ。スタン・アップルバウムは、バート・バカラック、筒美京平と並んで私が多大なる影響を受けた編曲家の1人である。

 というわけでアップルバウム名義の作品を探していたのだが、今のところシングルが数枚と『ハリウッド・ガールズ』しか確認できていない。このアルバム、日本語タイトルは少々ダサいが原題は『Hollywood's Bad But Beautiful Girls』(ハリウッドの、悪いが美しい女の子たち)というもの。2017年に一度CD化されているが現在は発売中止。音はYouTubeで試聴することができるが、やはり盤で持っていたい1枚ということで、私が欲しいレコードのリスト入りした次第。最後に参考までにネットで拾った収録曲の情報を。

(メーカー・インフォメーションより)

01. アンナ(「アンナ」より)
02. ローラ(「ローラ殺人事件」より)
03. ネヴァー・オン・サンデー(「日曜はダメよ」より)
04. ルビイ(「ルビイ」より)
05. サンディーのテーマ
06. アリスンのテーマ(「二十歳の火遊び」より)
07. タラのテーマ(マイ・オウン・トゥルー・ラヴ)(「風と共に去りぬ」より)
08. アントニーとクレオパトラのテーマ(「クレオパトラ」より)
09. ホワットエヴァー・ローラ・ウォンツ(ローラ・ゲッツ)(くたばれ!ヤンキース」より)
10. グロリアのテーマ(「バターフィールド8」より)
11. カリンのテーマ
12. 星影のステラ(「呪いの家」より)


Schacke / Stan Applebaum, His Piano And Orchestra
Hollywood's Bad But Beautiful Girls
Warner Bros. Records / W 1502 (1963)







高浪慶太郎

長崎市出身。1985年、テイチク・レコードよりピチカート・ファイヴとしてデビュー。作・編曲・プロデューサーとしても、小泉今日子、本木雅弘、広末涼子ら、さまざまな歌手やアーティストの他、アニメの音楽を手がける。2009年より長崎に活動拠点を移し5枚のCDをリリース。今年、作詞家・あさくらせいらが全作詞を手掛けた11月13日リリースのアルバム『Que Sera, Seira - Angel Birth -』にボーカル参加。また、「配信向けのピチカート・ファイヴその1 高浪慶太郎の巻」を配信中。

【配信向けのピチカート・ファイヴその1 高浪慶太郎の巻】


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