落語 みちの駅

第百十九回 「朝日名人会 第214回レポート」
 11月20日14時から有楽町朝日ホール(マリオン)にて。二ツ目は入船亭小辰、真打は桂文治、金原亭馬生、柳亭市馬。

 真打昇進も近い小辰「高砂や」は頼もしい口演。近頃、基本的なフォームよりも、乱雑なギャグの多発で悪ふざけをしているとしか思えない若手が互いに感染し合って暴れるケースが多い中で本格派は辛抱強く歩んでほしいものです。「〽高砂や」の謡がほどよく正調なのも結構でした。

 桂文治は往年の巨星・柳家金語楼(有崎勉)作の「ラーメン屋」。少々くすぐったい人情美談です。演者本人の心の体験を語る導入部はなかなかの聴かせどころ。池袋駅頭での親子別れのシーンは数年前よりも少し淡白になりましたが、このあたりがよろしいところ。

 金原亭馬生「茶金」は淡々と聴かせました。渋さと甘さがほどよく交り、落ち着いたテンポで語り進むこの師匠は古き佳き落語の味わいをたっぷり聴かせてくれます。

 中入り後は柳亭市馬「三軒長屋」。六十分に迫る長講でした。このネタは初演ではありませんが、数年前の「盃の殿様」などと同様に数か月越しで口演依頼をしていたもので、さてどうなることかと思っていましたが予想を超える秀演で、とてもうれしく思いました。

 市馬さんは口跡もテンポもよく、ここ数年は抑揚も細かくなってきて大ネタ熟(こな)しの第一人者の風格が見えてきました。三年後が楽しみです。

 一席減らして四席体制になった朝日名人会なのですが、その一席分の余白が全くないほどの長時間名人会になりました。お客様は満足して下さったと思います。

第百十九回 「朝日名人会 第214回レポート」
入船亭小辰「高砂や」


第百十九回 「朝日名人会 第214回レポート」
桂文治「ラーメン屋」


第百十九回 「朝日名人会 第214回レポート」
金原亭馬生「三軒長屋」



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著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。