落語 みちの駅

第百九回 「第203回朝日名人会レポート」
 第203回朝日名人会が10月18日(土)PM2時から有楽町マリオン朝日ホールで開催されました。半年ぶりの公演から2回目、まだ自粛体制が完全には解けない状況下、観客数が定員という五割足らずの試運転です。会としての盛り上がりには欠けましたが、演者はしっかりつとめてくれて、客席も寂しいながら和やか。消毒に付き合わされたり、チケットに氏名を書き込んだりの非常事態性は客席側としては愉快ではないはずですが、トラブルやクレームはとくになかったようでした。

 二ツ目・入船亭遊京「粗忽の釘」。かなり細部に独自の色を出して個性的な語り。この人は間違いなく優良株。近い将来が楽しみです。

 立川生志「権助提灯」。少し声が渋めになり、高座ぶりにも大きさが感じられるようになりました。この人もまた、当分目が離せません。

 柳亭市馬「大工調べ」(後半まで)。この噺を威勢のよさよりも貫禄で45分保つ域に入ってきたのはうれしいこと。棟梁政五郎の貫禄以上に奉行に品と重みがなければ、噺が上滑りしてしまいます。細部に小さな乱れが少しあったのが残念と言えば残念。

 入船亭扇遊「明烏」。主人公の若旦那ほどではないけれどマジメな師匠と見られがちな扇遊さんが結構ハメを外してくれました。基礎がたしかな師匠ですから、滑稽味が前面に出れば、鬼に金棒となるでしょう。

 桂文珍「憧れのホーム」。以前はホームを「養老院」にしていた、文珍師匠オリジナルの社会風刺の一席。自作、古典を問わず、人間戯画を描かせて右に出る人はありません。その、噺の中の人間が決して切羽詰まらず、のんびりと、飄々としている。ここが文珍らくごの魅力です。演者ひとりよがりの風刺談に落ちることがないのです。




第百九回 「第203回朝日名人会レポート」
入船亭遊京「粗忽の釘」


第百九回 「第203回朝日名人会レポート」
立川生志「権助提灯」


第百九回 「第203回朝日名人会レポート」
柳亭市馬「大工調べ」


第百九回 「第203回朝日名人会レポート」
入船亭扇遊「明烏」

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。