落語 みちの駅

第百八回 「「朝日名人会」再開」
 2020年9月19日に第202回朝日名人会が開催されました。1月18日以来八か月ぶりということになります。もともと年10回公演で2月と8月は休みでしたが、その2回を差し引いてみても、半年の空白は大きなものでした。

 新型コロナウイルス感染対策のためにさまざまな施策がとられ、落語にとっても未経験の数ヶ月でした。まだまだ前途に不安はありますが、とにかく再出発、出直しの回路に入りたいものです。

 当日は「雨」の予報がはずれて穏やかな曇り空。観客はマリオン朝日ホールの定員の30パーセントほどでしたが前座の口座から朗らかな笑いが絶えず、予想以上に陽気な会になって今後に期待がふくらみました。

 来春に真打に昇進して九代目春風亭柳枝を襲名する春風亭正太郎さんは師匠の正朝さんの十八番「祇園祭」で客席をわかせ、売れっ子・春風亭一之輔さんは二番手の出番をわきまえた「麻のれん」で巧みに笑わせてくれました。

 橘家圓太郎さんは「千両みかん」。すでに中堅の域を脱した人だけに話を引き締め、重みを問う高座ぶりがひかりました。古今亭菊之丞さんは達者な「転宅」で笑わせてくれて、「千両みかん」と「牡丹燈籠」の間で屈託のない笑いをかもしてくれました。

 柳家さん喬さんの「牡丹燈籠」その二は「お札はがし」を中心に据えて、演じられることが少ない黒川孝助の仇討をオムニバス風に配し、大作のスケールを感じさせました。場面転換が頻繁にあるので、噺の進行に乗り遅れるお客もあったかと思いますが、題名になっている牡丹模様の燈籠が存在感を示して、この大作の中核部を凝縮して聴かせてくれました。




第百八回 「「朝日名人会」再開」
春風亭正太郎「祇園祭」


第百八回 「「朝日名人会」再開」
春風亭一之輔「麻のれん」


第百八回 「「朝日名人会」再開」
橘家圓太郎「千両みかん」


第百八回 「「朝日名人会」再開」
古今亭菊之丞「転宅」

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。