DJ OSSHY TOKYOの未来に恋してる!
安心・安全・健康的なディスコ・カルチャーを伝達することを使命とするDJ OSSHYのインタビュー連載
第43回【対談●番外編:ディスコ・ラヴァーズ × パラダイス MEGA HITS ‘80s[後編]】
『ディスコ・ラヴァーズ』しかり。DJ OSSHY監修のコンピレーションで一番大切なのは、現場感。その一言につきますね(DJ OSSHY)
安川 さて。連載対談の番外編としてお届けしている「ディスコ・ラヴァーズ × パラダイス MEGA HITS ’80s」。前編はコンピを作る上での楽しさや苦労話、『パラダイス MEGA HITS ’80s』について楽しく話してきましたが、後編はDJ OSSHYさん監修・選曲『ディスコ・ラヴァーズ』についてお聞きしていきます。
鮎澤 [前編]で私はレコード会社のディレクターという立場からデータやマーケティングを参照した鉄板のヒット曲を集めたとお話しましたが、OSSHYさんの『ディスコ・ラヴァーズ』はもちろんヒット曲もあるんだけど、チャートにようやくラインクインしたような、もしかするとランクインもしていない曲も多く収録されています。いわば真逆の構成なわけですが、それでも5000セットを超えるヒットとなりました。ズバリ、ご自身でこのヒットの理由というのをどうお考えになっていますか?
OSSHY 現場感。その一言につきますね。チャートやマーケティングからは見えてこない、ダンス・フロアでのダイレクトな反応を思い浮かべながら選曲していきました。もちろん1枚のCDの中にストーリーをしっかりと描き出しているので、フロアのフィーリングをそのままパッケージしたと言っていいでしょう。でも、[前編]でもお話しましたが、当初はチャート・ヒットしなかった曲を入れることに難色を示すレコード会社のディレクターも多かった。
鮎澤 ぼくもディスコ・ブームの前だったら、しかめ面をしていたかも(笑)。
OSSHY まあ、それはお互いに立場があるからわかるんですけどね。でも、現場では圧倒的に支持されている。だから信じて入れてほしいというお願いをして、ようやく収録できるということを繰り返してきたんです。『ディスコ・ラヴァーズ』の制作の際はありがたいことに実績を積み重ねて信頼していただいていたことと、コンセプトもあって現場感そのままの選曲をすることができました。だからアース・ウインド&ファイアーも「セプテンバー」が入っていない。「ブギー・ワンダーランド」の方が現場では旬なので。
安川 OSSHYさんのようなリアルな反応に即した選曲というのは、新たな音楽を知るきっかけにもなりますよね。80年代はロックばっかり聴いてきた僕も、こんな曲も当時あったんだって、すごく興味が湧きました。そういう予期せぬ新たな出会いこそが、コンピの魅力でもあるわけですし。
OSSHY いや、まさにそんなセレンディピティを提示するのがDJの役割だし、私が作るコンピもまたそうでありたいと思うんです。隠れた名曲や、A面の1曲目は「レッツ・グルーヴ」だけど、B面の1曲目「カリンバ・トゥリー」~「偉大なる覇者」の流れも最高なんだよというような。
鮎澤 音楽の奥深さへ誘う入り口の役割にもなりますもんね。でも、たまに今期は売上の調子がいいから、挑戦したコンピも作っていいよと言われたこともあるんです。何枚か作りましたよ。
OSSHY えー! でも、それは外部に選曲を発注してないでしょ! だから、ぼくのようなところには話がこない(笑)。そういうときこそ、頼ってほしいなあ。
鮎澤 いや、それはOSSHYさんのコンピは平時にしっかりと売れますから、そういう時にはお願いできないんですよ、すいません(笑)。ディレクターの役得です。
OSSHY いや、それはうらやましい。ボランティアでもやりたいくらい。ガス抜きでもやらせてくださいっていうのを、これからセットでお願いしようかな(笑)。
鮎澤 それでも売れそうなコンピでしたら考えます(笑)。通常僕らは選曲するときにUSとUKのチャート・アクション、どんなタイアップが付いていたかを徹底的に調べて一覧表にまとめるんです。そこから見えるものを形にしていくというか。『PARADISE』も当時、表を作って、どう選曲に反映させていくかを考えていったんです。
OSSHY 完全にマーケティングですよね。その上でたくさんの人にどう楽しく聴いてもらえるか。これはこれで難しい。一方、私の場合もDJの感性を活かした選曲に、ある程度マーケティングを意識した選曲も加えないとバランスがうまく取れない。両立させるのも難しいんですよね。
安川 データを駆使していますが、鮎澤さんで唯一バグがあったのはデッド・オア・アライヴ(笑)。全英23位「マイ・ハート・ゴーズ・バング」と全英31位・全米15位の英ヒットの「ブランド・ニュー・ラヴァー」を間違えたのかなと。チャートからすると「マイ・ハート・ゴーズ・バング」はありえない選曲だったんで。
鮎澤 まだディスるのか(笑)。
安川 違いますよ。事実として……
OSSHY いやいや、「マイ・ハート・ゴーズ・バング」は、私はむしろ入れたいぐらいですよ。「ユー・スピン・ミー・ラウンド」はどのコンピにも入っているので。
安川 なんか[前編]を蒸し返してすいませんでした(笑)。あとちょっとおもしろいなと思ったのが、『PARADISE』にはドゥービー・ブラザーズの「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」が収録されていて、『ディスコ・ラヴァーズ』には同じくドゥービーでも「ロング・トレイン・ランニン(ギター・ミックス)」が収められていること。どちらのコンピも70~80年代を切り口にしているのは同じだけど、方向性がまったく違うというか。
OSSHY やっぱり、そこも現場感覚なんですよ。お客さんがどう動いたかのみを基準にしている。もちろん大ネタと言われるチャートでも上位の曲も入っていますが、日本のディスコでヒットした曲もたくさんある。
安川 例えば?
OSSHY 例えば、ルーサー・ヴァンドロスの「シー・イズ・ア・スーパースター」、レイ・パーカー Jr.の「パーティー・ナウ」、クリークの「ラヴズ・ダンス」、シェリル・リンの「イン・ザ・ナイト」、オデッセイの「インサイド・アウト」。これらの楽曲はディスコに行かないと知るのが難しい曲。ラジオやTVでもほとんど流れてない。そういう曲をなるべく現場感を大事にしながら、選んでいったんです。それが『ディスコ・ラヴァーズ』のひとつ目のコンセプト。
鮎澤 もうひとつは?
OSSHY 今の感覚に合った曲を選ぶということ。先ほどの「ロング・トレイン・ランニン」もオリジナルだと、テンポ感がもたついてしまう。でも、’93年に発表されたギター・ミックスはダンス・フロアを意識したリミックスなので、フロアではめちゃくちゃ盛り上がる。リミックスとは名曲が形を変えて受け継がれていく姿でもあるんですよね。
安川 なるほど。
OSSHY トム・ブラウンの「ファンキン・フォー・ジャマイカ」。オリジナルは’80年発表ですけど、’91年にドライザボーンがリミックスした7インチのヴァージョンをあえて収録しています。やはり、その方が今盛り上がるから。あとジグソーの「スカイ・ハイ」もPWLのピート・ハモンドによるリミックス、アン・ルイスの「恋のブギ・ウギ・トレイン」は90年代に入ってからのGroove That Soulのリミックスを採用しています。
鮎澤 当時流行っていたとかではなく、あくまでも今の視線なんですね。
OSSHY そこがいちばん大事なんです。カヴァーではなく、ヴォーカルは同じでダンス・フロアに適したリミックスがされている。オリジナルの良さを引き継いだ、今のディスコ感にフィットする、今の大人たちがこのヴァージョンで踊っているということを大切にしたのがふたつ目のコンセプトだったんです。このふたつのコンセプトを軸にしてコンパイルしました。これはたぶん、自分ならではだなと思いますね。現場をやってないとできない選曲ですし、そこが個性と魅力になっていると思います。
鮎澤 ディスコでの定番曲の中に、目新しさのあるリミックスがポンと入ることで、全体のスピード感やグルーヴ感が変わるというか、なんかバシッと決まってくる。そういう感じありますよね。「ロング・トレイン・ランニン」のギター・ミックスのように音が締まるというか。ちなみにそのドゥービーみたいに、OSSHYさんがリミックスしてみたい曲はあったりしますか?
OSSHY ちょうど2年、3年ぐらい前に売野雅勇さんが手がけたロシア人のユニット、Max Luxのリミックスを依頼されたんです。その作風の参考したのが、「コパカバーナ」の’93年リミックス。これは今でもディスコでプレイするんですが、その曲調にすごく似たラテンリズムっぽい、マイアミ・サウンド・マシーンの「コンガ」に通じる感じでリミックスしました。今ならば瑛人の「香水」。これはディスコ・ヴァージョンを作ってみたい。
鮎澤・安川 お!
OSSHY 「香水」は多分やる方がいるんじゃないかと思うんですけど、誰かの発案を真似たんじゃないって、ここでちゃんと言っておきます(笑)。もうちょっと打ち込みを入れて踊りやすい感じにしたら、なんか現場的には受けるんじゃないかなというふうに思いますね。
安川 ちなみにプリンスのファミリーと言えるシーラ・Eもどちらのコンピにも入っていています。曲も同じで、「グラマラス・ライフ」なんですが、これは当時から大好きな曲で、ジャンルを意識することなく夢中になりましたね。
OSSHY これもいまだに盛り上がりますからね。でもプリンスの「ビートに抱かれて」はそうでもない。盛り下がるわけではないんですが淡々とした感じで、でも「グラマラス・ライフ」はワッと熱気が出る。ラテンのりだからかな。「コンガ」ともよくつなぐし。プリンスと言えば1stアルバムの『愛のペガサス』に「アイ・フィール・フォー・ユー(恋のフィーリング)」も入っていますが、これはやっぱりチャカ・カーンのヴァージョンの方が盛り上がるので、こちらを収録しました。
鮎澤 チャカ・カーンのヴァージョンは最近よくラジオでもかかっていますね。再評価というか、あの音が今の雰囲気に合っているというか。
OSSHY チャカの「フィール・フォー・ユー」がリリースされたのが’84年。翌年の’85年あたりも含めたミッド80'sのサウンドが、80'sという括りの中でも、徐々に存在感を増しているんですよね。新鮮と言えばちょっとおかしいけれど、今までがマイケルの『オフ・ザ・ウォール』に代表されるアーリー80’sのサウンドが出尽くしてきて、次のステップとしてミッド80'sが来ている。
鮎澤 その感覚はわかりますね。アーリー80’sはオールディーズのような位置になりつつあるのかも。古びれたということではなく、定番という意味で。
OSSHY そうなんです。ミッド80'sは楽器の音色からして違いますよね。どんどんエレクトリックになっていって、なんとなく新しいフィーリングを伴っている。現場ではマイケルというと『オフ・ザ・ウォール』だったのが、今はけっこう『スリラー』の方にシフトチェンジしてきているんですよね。フロアの反応を見るとわかる。「フィール・フォー・ユー」もちょっと前はウケがさほど良くなかったんですが、今はもう盛り上がる、盛り上がる。
安川 80年代はめまぐるしくサウンドが変化して、常に新しい表現が生まれていた。だから、ざっくり80'sと言っても10年間ですから時期によって全然、音が違うんですよね。
OSSHY そう、’80年と’89年の音ではまったく違う。その中で、2020年の今の感覚でいう80’sはどこなんだとなるとミッド80'sになる。70年代ディスコに思い入れのある人もリアルタイムでは抵抗があったミッド80’sの音を受け入れつつあるんですよね。完全に拒否していたリック・アストリーの「トゥゲザー・フォーエヴァー」でみんな踊るようになったんですよ。街なかで自然と耳にすることでなじみが出てきたのと、自分も成長しているんだということを投影しているからでしょうね。だから、80'sディスコのサウンドの新たなイメージができつつあるんです。
安川 西寺郷太さんが同じotonano連載でよく言う、「シンクラヴィア時代」ですね。80年代のトップ・アーティストたちがこぞって導入した、DAW(デジタルオーディオワークステーション)の元祖と言うべき。1台1億円!
OSSHY そう、まさにシンクラヴィアの時代であり、ミッド80'sの象徴でもある。『ディスコ・ラヴァーズ』はアーリー80’sのディスコ・ヒッツを網羅しましたが、自分の中の暗黙のルールとして’84年以降の曲は、リミックスなどを除いてですが選んでいないんですよ。
鮎澤 そのルールは大事ですね!
OSSHY 『ディスコ・ラヴァーズ』がリリースされてから約10年。ありがたいことにたくさんの方々に購入していただき、じっくりと聴き込んでいただいた。そんなアーリー80’sファンたちも、ちょうど’84~’86年あたりの音を求めていると思うんですよね。ですので、ぜひ『ディスコ・ラヴァーズ~ミッド80's』を作らせてほしいんです。今の現場感でもあるし、このあたりの音をまとめたコンピも見当たらない。こちらもヒットさせますので、ぜひ!
安川 そのライナー書かせてください!
鮎澤 では、その前にOSSHYさんにはまた何枚かヒットするコンピをウチで作っていただいて(笑)。
OSSHY あらら、ミッド80'sへの道はまだ遠い(笑)。全国に散らばるDisco Loversに向けて、引き続きがんばります! [終わり]
鼎談進行・文/油納将志 写真/島田香
- ●鮎澤裕之(あゆさわ・ひろゆき)
- 1968年生まれ。ソニー・ミュージックダイレクト プロモーション部デジタルプロモーション課 課長。『PARADISE』等の多くのコンピレーションCD制作を経て現職。実は筋金入りのプログレ・マニア。[写真右]
- ●安川達也(やすかわ・たつや)
- 1970年生まれ。otonano編集部在籍。ライター、編集者、個人事業主、痛風。ライフワークはブライアン・アダムス。でもロックもコーヒーも思いきりアメリカン。いつでも心はニュージャージー!
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