私が欲しいレコード
幻の名盤から架空の一枚まで。今聴きたい、今欲しいレコードを、各界のレコード愛好家のみなさまに、自由な発想で綴っていただきます。
第2回【澤部渡(スカート)】 ミュージシャン
高校生だった頃、テストの余った時間で好きなアーティストのベスト盤を作るなら、と選曲を真剣に考え、問題用紙に書いていました。ただのベスト盤ではなくアナログ盤、それも毎回決まって2枚組。
GREAT TRACKSが再発のリクエストを募っていると知って僕はまっさきにyes, mama ok?の『CEO』のアナログ化をリクエストしました。2000年発表の『CEO』はSONY傘下のetiquette recordingからリリースされていたから、きっとこのタイトルなら話が早いだろう、と。そして今回、「私が欲しいレコード」というお題を受けてもなお、私がまっさきに思いついたのはyes, mama ok?でした。
中学生だった私はいわゆる「ロック」との距離の取り方に大いに悩んでいました。自分にとって「ロック」は正当なものだと思っていたし、「ロックがやりたい」と言ってまで吹奏楽部を退部したというのに!!そんな私の前に現れたのがyes, mama ok?でした。自らをロックという箱に入れるたびに感じていた違和感を一発で崩して、ポップが内包するものの大きさに気づかせてくれたのです。
高校生だった頃、テストの余った時間で好きなアーティストのベスト盤を作るなら、と選曲を真剣に考え、問題用紙に書いていました。ただのベスト盤ではなくアナログ盤、それも毎回決まって2枚組。それらのテスト用紙は捨てた記憶もないけど絶対どこにもないことだけはわかります。今となってはどのアーティストのベスト盤、どんな選曲をしていたかわからないけど、中間テスト、期末テストが来るたびに必ずyes, mama ok?のベスト盤を空想していました。
人生とはわからないもので私は2010年にディスクユニオン社から再発された『CEO』の編纂に携わったあげくサポートメンバーにまで上り詰めます。そしてその5年後『CEO』を再発したディレクターに「今年でイエママ20周年ですよ、なんか出しましょうよ」と言ったことから『Greatest Hits』の選曲を担当することになります。これほど嬉しいことはなく、当時のテストの問題用紙に見守られるような気持ちで最初の草案を担当者に送った気持ちを今でも思い出せます。そして今、あの頃の空想に立ち戻り、今ならどう組むかを考えてみました。
どうしてアナログ盤だったのか。一度始まったら円を描ききるまで終わらないCDとは違って、多くのアナログ盤には「ひっくり返す」という作業が入ります。そこでリセットと言い切るには地続きなそれを挟む。つまり今回の2枚組なら4回分の1曲目(や最後の曲)があることが魅力的だと思うのです。
A面B面はそれぞれ特にキャラクター分けをせず、真摯にベスト盤を組むつもりで選曲。A面の1曲目はデビュー・アルバム『modern living』からオルガンベースがうねる“コーヒーカップでランデヴーって最高よ -modern style-” で初め、美しいメロディを持ちながらパンクの成分も香る“The Charm of Engilsh Muffin”に落ち着く、というもの。B面はいつか『CEO』がアナログになったとしても最後の曲で溝が内側になるだろうから、とギター一本で歌われる“days of heliotrope”を敢えて冒頭に。そして“Q&A call 65000”で爆発、ガレージ・ボッサ“sun oil”をかまして、彼ら屈指の傑作、オルタナティヴ・バラード“最終定理 -post modern living-”に着地する。これはきれいな着地。
C面はyes, mama ok?の愛すべき小ネタ、小品を注ぎ込みました。最初はD面でもいいか、と思ったのですが、「おまけ」のように見られる可能性がある、と謎の被害妄想が生まれ、「これらが重要なんだよ!」とC面にしました。“wild turkey”からラウンジーな数曲を経て分数的にも小品とは言い難いけど気持ちのいい流れを感じて“二枚舌のムニエル”を選曲。そして最後はドラム叩きがたりでお送りする“春咲小紅”のカバーに着地。これは意地でも着地してやるんだ、という根性に美しさを見出すやつです。こういう美しさもある。
D面は彼らのキャリアの初期に発表された3枚のマキシ・シングル、『コーヒーカップでランデヴーって最高よ』『tea party』『砂のプリン』のそれぞれの表題に加えて『Greatest Hits』では収録時間の都合で泣く泣くカットした“Triangle”を追加。彼らの活動初期から存在する曲だと聞いていたので選曲しました。
yes, mama ok?は2020年でデビュー25周年を迎えます。新譜の制作も噂されていて、実現したら実に20年ぶりの作品になるそう。今からとても楽しみです。あの時、yes, mama ok?を聴いていなかったら今の私はこうして音楽をやっていたでしょうか。ありったけの感謝を込めて。
※yes, mama ok?アナログ2枚組ベストアルバム選曲案
A-1 コーヒーカップでランデヴーって最高よ -modern style-
A-2 Perfect Young Lady
A-3 Shopliftin’ Blues
A-4 問と解
A-5 The Charm of English Muffin
B-1 days of heliotrope
B-2 Q&A call 65000
B-3 sun oil
B-4 hurry up!
B-5 最終定理 -post modern living-
C-1 Charley
C-2 heart break kitchen
C-3 wild turkey
C-4 in place of my arms
C-5 トレイル・ランナー かっこいい!
C-6 二枚舌のムニエル
C-7 カスタネットヒーローは誰だ
C-8 最高のブルース
C-9 Hate Me Blues
C-10 Charley one the ranch
C-11 春咲小紅
D-1 コーヒーカップでランデヴーって最高よ (Single Version)
D-2 tea party
D-3 砂のプリン
D-4 Triangle
- ●澤部渡(スカート)
- どこか影を持ちながらも清涼感のあるソングライティングとバンドアンサンブルで職業・性別・年齢を問わず評判を集める不健康ポップバンド。強度のあるポップスを提示し、観客を強く惹き付けるエモーショナルなライヴ・パフォーマンスに定評がある。2006年、澤部渡のソロプロジェクトとして多重録音によるレコーディングを中心に活動を開始。2010年、自身のレーベル、カチュカ・サウンズを立ち上げ、1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースした事により活動を本格化。これまでカチュカ・サウンズから4枚のアルバムを発表し、2014年にはカクバリズムへ移籍。アルバム『CALL』(2016年)が全国各地で大絶賛を浴びた。そして、2017年10月にはメジャー1stアルバム『20/20』を発表。昨年にはメジャー1stシングルとしてリリースした「遠い春」が映画「高崎グラフィティ。」の主題歌、カップリング「忘却のサチコ」が高畑充希主演のドラマ「忘却のサチコ」のオープニングテーマに起用された。そして、2019年にリリースした最新アルバム『トワイライト』には大泉洋主演映画「そらのレストラン」に書き下ろした主題歌と挿入歌を収録。また、そのソングライティングセンスからこれまで藤井隆、Kaede(Neggico)などへの楽曲提供、ドラマ・映画の劇伴制作に携わる。更にマルチプレイヤーとしてスピッツや鈴木慶一のレコーディングに参加するなど、多彩な才能、ジャンルレスに注目が集まる素敵なシンガーソングライターであり、バンドである。
スカート オフィシャルサイト
skirtskirtskirt.com
澤部渡 Twitter @skirt_oh_skirt