落語 みちの駅

第九十二回 「『朝日名人会』本年後半シリーズがスタート」
 9月15日第182回朝日名人会の報告です。

 二ツ目・雷門音助さん「鈴ヶ森」は地味ながら基本が確かな口演で、ひとりよがりのギャグなど入れず、落語を聴かせる会の流れと雰囲気を作ってくれました。これからが楽しみな人です。

 橘家圓太郎さん「化物使い」は素晴らしい出来栄えでした。細かい表現の工夫が至るところにあって一皮剥けた感があります。もともと実力者でしたが、近年しばらく迷いがあったように思っていました。春風亭あさりの頃から着目していた私としては何やらとてもうれしく思います。この「化物使い」に関しては今や、トップだと思います。「のっぺらぼう」への、志ん朝流の褒めことばも今回は独自な表現になっていました。

 五街道雲助さん「禁酒番屋」は師・十代目金原亭馬生流の行き方で、あたかもスタンダードのようになっている柳家型とは随所に違いがあって楽しめました。何でも一辺倒になる傾向というのは頂けませんね。「ツーダン・ゲッツー」のギャグを言ったあと、「こういうのは嫌いなのですが、師匠がやっていまして……」は、さすがオトナのひとこと。

 仲入り後は柳家花緑さんで季節もの「目黒のさんま」。近年各地でイベントになっている「さんま祭り」についてたっぷりコメントし、それというのもこの噺があってこそなのに、テレビ報道の画面は無料のサンマを頬張る顔、顔、顔で、脇で必ずやっている噺の実演は映さない――、と陽気に苦言を呈していました。

 トリは柳家権太楼さん「茶の湯」。じつは7年前にここで演じてもらった噺ですが、そのときは絶好調に過ぎ、おもしろすぎて、映像が伴っていればともかく、音声だけでは少し激しすぎるように思われました。近頃大家の風格とみに上がった柳家権太楼師匠はどうやら根岸の里の暮らし方に馴れてきたようです。




第九十二回 「『朝日名人会』本年後半シリーズがスタート」
雷門音助「鈴ヶ森」


第九十二回 「『朝日名人会』本年後半シリーズがスタート」
橘家圓太郎「化物使い」


第九十二回 「『朝日名人会』本年後半シリーズがスタート」
五街道雲助「禁酒番屋」


第九十二回 「『朝日名人会』本年後半シリーズがスタート」
柳家花緑「目黒のさんま」

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。