キーワードで振りかえる80’s 洋楽パラダイス
1970年生まれ(昭和45年生まれ)のotonano編集部員が語る80年代洋楽体験記
MEDIA Part2
レコードからCDへ。
アナログからデジタルへの移行が始まった80年代。
それでも僕らの最重要必需品は……!?
写真提供:ソニー株式会社
1979年7月に発売されたソニーの初代ウォークマン®「TPS-L2」。3万3000円。
音楽を持ち歩く新スタイル。希代の逸品ウォークマン®登場!
「小型のテープレコーダーにステレオ回路を入れてくれ」。井深大副社長(当時)のひと声で開発が始まったソニーの初代ウォークマン®「TPS-L2」が発表されたのは1979年だった。音楽を持ち歩く新スタイルの逸品として発売当初からヒット商品に。ザ・ナックの「マイ・シャローナ」が世界中を席巻し、日本では山口百恵の「しなやかに歌って -80年代に向って-」が街に流れている頃だ。このウォークマン®、すなわちヘッドフォンステレオプレーヤーがさらに一般層にまで浸透し爆発的なヒットとなったのは、1981年に2代目ウォークマン®「WM-2」が登場したからだ。
写真提供:ソニー株式会社
メタルテープにも対応したソニーのウォークマン®2代目モデル「WM-2」。
初代よりも高さが24.5mmも低くなり、カセットケースと同等のサイズに。
徹底的にファッション性を意識し、外部デザインから設計されたこの新モデルは、可能な限りの小型化を目指し280gという軽さも実現、当時の若者から圧倒的に支持されたのだ。ヘッドフォン族という言葉が生まれたのもこの頃で、今でこそあたりまえの光景だが電車やバスなどの移動時間や公園のベンチなど好きな場所に好きな時間に音楽を聴く、まったく新しい音楽の楽しみ方が始まったのだ。アメリカでも1980年の発売当初からヒット商品になっていたが、その人気をダメ推したのは1984年公開映画『フットルース』だと言われている。サントラのジャケットのケビン・ベーコンの腰にぶら下がっているフォルムこそがウォークマン®にほかならない。
- オリジナル・サウンドトラック『フットルース』
- 「パラダイス~愛のテーマ」アン・ウィルソン&マイク・レノ
「ヒーロー」ボニー・タイラーほか収録 - Sony Music Labels
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【80s 洋楽パラダイス連載③SOUNDTRACK part1】
“貸しレコ”からの帰り路にはカセットテープもゲット!
街に2代目ウォークマン®溢れ始めたほぼ同じ頃、レンタルレコード店が全国で1000店舗を突破しようとしていた。黎紅堂、友&愛、レック、ジョイフルが店舗の数からいわゆる貸しレコ4強(ちなみに横浜出身の筆者が学生の時にお世話になった友&愛の上大岡店の若き店長こそエイベックス・グループ・ホールディングス代表取締役社長の松浦勝人氏。改札口に近いお店があった場所は今は京急百貨店)。貸しレコはレコードの再生目的のためだけに利用したわけではない。正確に言えばカセットテープにダビングするため(家庭用に楽しむため!)。お金持ちは知らないけれど、これが音楽小市民の付き合い方。当時はアルバム1枚の収録時間は40~45分が基本だったので、片面23分×2の46分カセットに収めることが主流。良くも悪くも再生順をリスナーが選ぶことはほぼ出来なかったため、アーティストが意図した通りの内容をみんなで共有していた。だから僕らアナログ世代は愛聴した分だけ次曲の頭の音が脳裏に刷り込まれ、際どい曲間の長さまで身体が憶えていった。
- ジャーニー『フロンティア―ズ』
- 「セパレイト・ウェイズ」ほか収録
- Sony Music Labels
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2017年2月、ジャーニーは日本武道館で『エスケイプ』(’81年)『フロンティア―ズ』(’83年)を完全再現。収録曲順通りに演奏されるたびに客席がどよめきながら同時に歓喜する一体感にも似た光景は、90年代のCD世代が何人集まっても起こらないだろう。まさにWe Are The 80s!
一方、シンディ・ローパーは『シーズ・ソー・アンユージュアル』(’83年)の30周年記念アルバム完全再現ライヴでA面ラストの「タイム・アフター・タイム」を歌い終わると嬉しそうな笑みを浮かべてMCを始めている。B面に移行するか否かの判断だけが唯一のリスナー選択肢。程良いインターバルを提供するシンディ。分かっている。やっぱり“彼女は普通じゃない”。
- シンディ・ローパー『シーズ・ソー・アンユージュアル』
- 「タイム・アフター・タイム」ほか収録
- Sony Music Labels
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- シンディ・ローパー『シーズ・ソー・アンユージュアル30thアニバーサリー・ライヴ<フロント・アンド・センター> at ハイライン・ボールルーム』
- *『シーズ・ソー・アンユージュアル』全曲再現ライヴCD+DVD
- Sony Music Labels
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ワム!の『メイク・イット・ビッグ』はマクセルにダビング!?
LPからカセットテープへのダビングでたまに困らせてくれるアルバムも存在した。例えば、ブルース・スプリングスティーンの『BORN IN THE U.S.A.』(’84年)は6+6=12曲入りということもあってか46分テープでは収め切れずに、54分テープにダビングし直すなど手間をかけたリスナーも多かった。なかには録音レベルをつまんで強引にフェードアウトするツワモノもいたが……(たまにやってました)。一方、ヴァン・ヘイレンの『1984』(’84)は5+4=9曲入りながらも、マクセルの30分テープならばギリギリ収録できてしまう(!)などメーカーによって内容にも差があることを僕らユーザーは気づき始め、口コミによる友人との情報交換もカセットテープ作りの楽しみのひとつとなっていく。
- ワム! 『メイク・イット・ビッグ』
- 「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」ほか収録
- Sony Music Labels
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極私的にはARシリーズを飾ったスティーヴィ―・ワンダー「パート・タイム・ラヴァー」(’85年)好きということもありTDKテープのファンだったが、ワム!の『メイク・イット・ビッグ』(’83年)だけは、やはりマクセルUDⅡにしっかりと収めている。その“見晴らしいいよ、ハイポジション”のキャッチフレーズで日本のお茶の間に浸透したワム!の後を追うように、スタイル・カウンシルやトンプソン・ツインズがマクセルCMの顔となっていったこともありUKロック&ポップスファンにマクセル派が多かった。ソニーのカセットテープは内部がそのまま見えるシースルーハーフに代表されるデザイン重視派に圧倒的に支持され、’89年にはビスを一本も使わないメタルテープMETAL-XRまで到達する。そんなカセットテープ需要を促進させた貸レコとの密月関係は80年代の特徴とも言えるが、この時代にもっと手っ取り早く自分だけのカセットテープが作れる楽しみかたががもうひとつあった……70年代から続いていた「エアチェック」だ。(続く)
文・安川達也(1970年生まれ/OTONANO編集部)