キーワードで振りかえる80’s 洋楽パラダイス
1970年生まれ(昭和45年生まれ)のotonano編集部員が語る80年代洋楽体験記
SOUNDTRACK part2
ロック&ポップスが映画と完全合体した80sMTV映画。
「フィルムを聴く」史上空前のサントラブームを振り返る。
COPYRIGHT © 1986 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED. TM,
®& COPYRIGHT © 2011 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
究極の80sMTV映画『トップガン』が離陸!
80年代半ば。『フラッシュダンス』(‘83年)『フットルース』(’84年)にみられるミュージックビデオ(以下MV)を飛躍させたいわゆる80sMTV映画は“音楽と映画のどちらが先に作られているのか”の議論までメディアをにぎわせた。純粋な音楽ファンは眉をひそめていたが、映画とロック&ポップスの蜜月の関係を築き上げたハリウッドは、そんな疑問にも開きなおり、なかでも『フラッシュダンス』『フットルース』で時代を作ったパラマウント映画は、'86年に究極の青春映画を完成させる。トム・クルーズをトップスターに押し上げた『トップガン』(’86年)だ。
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デンジャー・ゾーンに突入したロック&ポップスと映画の蜜月
'86年度世界No.1ヒット映画となった『トップガン』は、海軍エリート・パイロット養成学校のナンバーワン=TOP GUNを目指す士官候補生の栄光と挫折、そして教官との禁じられた恋を描いた青春物語。『フラッシュダンス』『フットルース』同様にたった3行で語れるストーリーのもうひとりの主役はやはりロック&ポップスだった。オープニングの飛行シーンで「デンジャー・ゾーン」(ケニー・ロギンス)の爆音がF14トムキャットのエンジン音を豪快にかき消す。向こう見ずな士官候補生マーべリック(トム・クルーズ)と飛びきり美人な教官チャーリー(ケリー・マクギリス)が濃厚ラブシーンを重ねる度に、「愛は吐息のように」(ベルリン)がこれでもか、これでもかとネットリと覆い被さる。映画史上に類をみないこのヘビーローテーションこそが、80sMTV映画の醍醐味だった。この時点で、もはやロック&ポップスは台詞を超えた存在になり、映像とは切っても切れないDANGER ZONEに突入していた。
実際に「デンジャー・ゾーン」と「愛は吐息のように」のMVを連続で観ると、もうそれだけですっかり映画を全部を観た気分になっていたから面白い。サントラ『トップガン』は’86年夏にマドンナ『トゥルー・ブルー』と抜きつ抜かれつの熾烈な全米チャート争いを展開し、最終的に不連続の5週首位を獲得しアメリカだけで700万枚(当時)のセールスを突破した。ロック系ミュージシャンには冷たかったアカデミー協会もここまで来ると、社会現象として無視することができなくなり、ベルリン「愛は吐息のように」が第59回アカデミー賞の最優秀歌曲賞を受賞した。
上段:通常の両面アナログ盤 下段:片面アナログ盤ONE SIDE SINGLE
本国アメリカ公開から遅れること半年。日本では『トップガン』は12月に全国公開された。お正月映画として公開された。筆者は、高校の授業をさぼって映画館に直行した。今はもうない横浜・馬車道の東宝会館。超満員の劇場の一番前の席で首をアゲながら観たトム・クルーズのカッコ良さにまさにロックオン! 劇中で流れる曲はすべてメロディをなぞれるほど聴き慣れたものだった。大好きだったラヴァーボーイ「ヘヴン・イン・ユア・アイズ」の挿入がどうしても分からず、中盤のレストランで談笑する他愛もないシーンでちょっとだけ使われていたことは3回目の鑑賞でやっと判明(全部で4回は観たかな)。そんなリピーターも多かったのだろうか。『トップガン』はそのままお正月映画の主役となり、'87年度国内No.1興収を記録する大ヒットなった。サントラも80万枚に迫るセールスを突破し、80s洋楽ベストセラーアルバムの仲間入り。さらに日本ではカットシングル6枚が通常の両面アナログ盤(700円)とタイトル曲だけ刻まれた片面アナログ盤ONE SIDE SINGLE (400円)も発売された。
【80s国内洋楽アルバムセールスTop10】
- タイトル/アーティスト/国内発売年月日/推定セールス(万枚)
- 01 スリラー
マイケル・ジャクソン '82.12.10 160万枚 - 02 フラッシュダンス
サウンドトラック '83.06.25 106万枚 - 03 フットルース
サウンドトラック '84.04.21 95万枚 - 04 メイク・イット・ビッグ
ワム! '84.11.21 85万枚 - 05 愛の瞬間
フリオ・イグレシアス '82.10.21 84万枚 - 06 トップガン
サウンドトラック '86.07.21 78万枚 - 07 トゥルー・ブルー
マドンナ '86.07.25 75万枚 - 08 グレイテスト・ヒッツ
アラベスク '81.05.21 71万枚 - 09 BAD
マイケル・ジャクソン '87.08.31 70万枚 - 10 ライク・ア・ヴァージン
マドンナ '84.11.28 65万枚 - 【OTONANO編集部調べ/参考データ:日本レコード協会】
80s サントラブームはバブルのごとく弾け散った
80年代も後半になると『ダーティ・ダンシング』('87年)、『カクテル』('88年)など、劇場の観客動員以上にLP/CD などの音楽ソフトの方が売れるという世界共通の逆転現象が起こり始めた。『トップガン』(’86年)をピークとするムーヴメントの反動として映画本編の質の向上を求めたのだろうか、映画はしだいにロック&ポップスから距離を置くようになっていく。
 
80s人気No.1ポップシンガー、マドンナが出演した映画『マドンナのスーザンを探して』('85年)『上海サプライズ』('86年)『フーズ・ザット・ガール』('87年)が3作連続でコケてしまったこともブーム終焉と無縁ではない。MTVが生んだ80sディーヴァのハリウッド進出の失敗が、ロック&ポップス先行の映画製作を大きく見直す決定打になったとも言われている。そのマドンナのアクトレスとしての評価は、皮肉にも演技をしない『イン・ベッド・ウィズ・マドンナ』('91年)、さらには歌唱力をアップさせて挑んだ『エビータ』('95年)まで待たなければならなかった。時代は動き続けるまさにモーションピクチャー。90年代を迎えることなくサントラブームは文字どおりバブルのごとく弾け散った……。
 
……かのように思われた90年代初め。『ボディガード』(’92年)が空前の大ヒット。OLやカップルが映画館に大挙押し寄せた。サントラも『フラッシュダンス』『フットルース』『トップガン』が未踏だった洋楽サントラ史上初のダブルミリオンを達成した。ホイットニー・ヒューストンの歌声に酔いしれた観客の多くが、すっかり社会人になっていたグレイテスト・ラヴ・オブ・オールな80sMTV世代だったことは言うまでも(エン)なぁ~~~~~~~い♪ 合掌。
文・安川達也(1970年生まれ/OTONANO編集部)
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『トップガン スペシャル・エディション』 - 発売中
- NBCユニバーサル・エンターテイメント
(1986年・アメリカ映画) - 詳細はこちらから
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『トップガン スペシャル・コレクターズ・エディション』 - 発売中
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(1984年・アメリカ映画) - 詳細はこちらから
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『PARADISE』に収録された80年代映画の主題歌/挿入歌
- [DISC:1]
- 14. リヴィング・イン・アメリカ / ジェイムス・ブラウン 『ロッキーⅣ』’85年
- 17. アイ・オブ・ザ・タイガー / サバイバー 『ロッキーⅢ』 ‘82年
- 18. デンジャー・ゾーン / ケニー・ロギンス 『トップガン』 ’86年
- [DISC:2]
- 1. レッツ・ゴー・クレイジー / プリンス 『パープル・レイン』’84年
- 11. ラ・バンバ / ロス・ロボス 『ラ・バンバ』’87年
- 16. ニューヨーク・シティ・セレナーデ / クリストファー・クロス『ミスター・アーサー』 ‘81年
- 17. ローズ / ベット・ミドラー 『ローズ』’80年
- 18. スタンド・バイ・ミー / ベン・E.キング 『スタンド・バイ・ミー』’86年
- [DISC:3]
- 3. パラダイス~愛のテーマ / アン・ウィルソン&マイク・レノ 『フットルース』’84年
- [DISC:4]
- 4. パワー・オブ・ラヴ / ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』’85年
- 18. ネバーエンディング・ストーリーのテーマ / リマール 『ネバーエンディング・ストーリー』’84年
- [DISC:5]
- 3. フットルース / ケニー・ロギンス 『フットルース』’84年
- 5. ゴーストバスターズ / レイ・パーカーJr. 『ゴーストバスターズ』’84年
- 12. ヒーロー / ボニー・タイラー 『フットルース』’84年