キーワードで振りかえる80’s 洋楽パラダイス
1970年生まれ(昭和45年生まれ)のotonano編集部員が語る80年代洋楽体験記
SOUNDTRACK part1
ロック&ポップスが映画と完全合体した80sMTV映画。
「フィルムを聴く」史上空前のサントラブームを振り返る。
© 1984 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED. TM, ®& Copyright © 2012 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
ミュージックビデオを“4分間の映画”に位置づける
ミュージックビデオ(以下MV)の内容が充実していれば、曲もヒットするという方程式が欧米の音楽業界の常識となった80年代前半。“映像を制する者は音楽シーンをも制す”と言われるなか、先見に富んだアーティストたちはMVをもはや“4分間の映画”と位置付けるようになった。
2時間の劇場公開映画のハイライトシーンを2~3分の編集映像に落とし込んだ予告編というのは、誰が観ても大抵面白そうに見えるもの。アーティストと楽曲の魅力を伝えるためにMVでは、じつはそれと同じような効果を出すために映像形成していたのだ。カルチャー・クラブの華やかなMV や、デュラン・デュランの凝ったストーリー仕立てのMVの質は群を抜いていた。
衝撃の米MTV開局から端を発した第2次ブリティッシュインヴェイジョンが大きなうねりとなりつつあったなか、’81年~’82年頃の全米ヒットチャートはもうひとつのムーヴメントの兆しを見せはじめていた。『エンドレス・ラブ』『アーサー』『愛と青春の旅だち』『ロッキー3』などの映画主題歌が軒並みヒットチャートの首位を独走。劇中フィルムをふんだんに使ったMVの効果も功を奏したことはいうまでもない。
そんなビジュアル重視が追い風の80年代前半、ハリウッドは、面白いことにそんなMV効果を逆転発想した。つまり、4分間の音楽宣伝映像MVを、2時間にバージョンアップさせたのだ。もちろんそのことを声高に公言したわけではないが、スクリーンに映し出される作品は正直で、顕著だった。空前のサントラブームが始まろうとしていた。
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Waht a feeling なロック&ポップスとの恋愛関係
サントラブーム牽引したのは“インディ・ジョーンズ”シリーズで盛況イケイケのパラマウント映画だった。看板プロデューサーにドン・シンプソン&ジェリー・ブラッカイマーを迎え、音楽監督はジョルジオ・モロダー、そして看板作品は1983年公開の『フラッシュダンス』だった。プロのダンサーを夢見る主人公アレックス(ジェニファー・ビールス)が、アイリーン・キャラが歌う主題歌「フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング」に包まれる。窓から陽が差し込むオーディション部屋の中、審査員の前で踊る印象的なラストシーンは、80sMTVフィーリング映画の華やかさを放っていた。
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ケビン・ベーコンはウォークマン®でフットルース!
『フラッシュダンス』の興奮が覚めやらぬ翌'84年、パラマウントでもうひとつのダンス映画が公開された。「MTV に映画の未来を見た!」と公言、演出家ハーバート・ロスが手掛けたのが『フットルース』だった。シカゴ育ちの高校生(ケビン・ベーコン)が、ダンス禁制のスモールタウンに引越し、高校でダンスパーティを実現させるための青春ドラマ、というたった3行で記せる物語を1時間47分で繋いだのは、やはりロック&ポップスだった。
同じダンス映画でも『サタデー・ナイト・フィーバー』('78年)はミラーボールの下でみんなが同じステップを刻んだが、80年代に入るとプライベート空間でリズムを刻む=フットルースしたのだ。可能な限りの小型化を目指し280gという軽さを実現したソニー発のウォークマン®は、日本では若者を中心に爆発的な人気となった。ウォークマン®はアメリカでも発売当初から人気だったが、’84年の『フットルース』ブームで全米大ヒット商品となった。ジャケットでケビン・ベーコンが腰にぶらさげているオーディオプレイヤーのフォルムこそ、ウォークマン®だった。
'84年は『スリラー』『フットルース』の 1、2 フィニッシュ!!
「フットルース~メイン・テーマ」(ケニー・ロギンス)、「レッツ・ヒア・イット・フォー・ザ・ボーイズ」(デニース・ウィリアムス)、「パラダイス~愛のテーマ」(アン・ウィルソン&マイク・レノ)をはじめ、青春ストーリーを大音量で包み込んだナンバー6曲がシングルカットされ全米ヒットを連発。アルバムも700万枚のセールスを突破し、'84年度上半期の全米チャートは『フットルース』に席巻された。
公開が数カ月遅れた日本では夏にサントラセールスが加速し、9月10日付オリコン総合1位に輝き80万枚のセールスを突破。オリコン年間チャートは1位がマイケル・ジャクソンの『スリラー』、2位が『フットルース』、3位がサザンオールスターズ『人気者で行こう』という洋楽の1、2フィニッシュも実現した。
さらに『フットルース』から、ムービング・ピクチャーズを元ピンク・レディーのMIEがカヴァーした「NEVER」が『不良少女と呼ばれて』、ボニー・タイラーを麻倉未稀がカヴァーした「ヒーロー -Holding Out For a Hero」が『スクール☆ウォーズ』と、やはりそれぞれ人気大映ドラマの主題歌となった。さらに、さらに。ケニー・ロギンスの「アイム・フリー」のカヴァーで、My Revolution する前の渡辺美里がデビューするなど、サントラ発のカヴァーブームもマックスをむかえた。
『フラッシュダンス』『フットルース』『ゴーストバスターズ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』……過剰なまでの音楽依存は音楽と映画がどちらが先に作られているのか?という疑問まで巻き起こる。映画とロック&ポップスの密月関係は、そんな問いにも開き直り、そのまま究極のデンジャー・ゾーンに突入していくことになる。
文・安川達也(1970年生まれ/OTONANO編集部)
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