落語 みちの駅

第五十二回 8月11日問題
 今年から8月11日が祝日「山の日」になったのだそうです。同類?の先輩祝日、海の日は日付けが一定しない月曜祝日のグループに属しているのに、新参・山の日が日付け固定で、なんだか格上顔をしているように見えます。

 学校が夏休み中の祝日誕生は学生からすれば大して有難味もありません。8月11日を休みにするのはお盆に合わせて帰省旅行を促進させ、消費拡大の経済効果をアテにしている、ということなのでしょう。

 お盆の里帰りが建前ならば「里の日」がいちばんふさわしいのに、海の日とのバランスをとってこんな名称にしたのかしら。この国らしいことですね。

 伝統的な山開きは全国各地の名山にありますが、ほとんど6月から7月に済んでいます。

 でも落語に想いを抱く有為の方々、8月11日は全く別の記念日として何かを思い、何かを致そうじゃござんせんか。8月11日は憚ることなき特別の日付けに他なりません。

 高座の名人にして破格の噺作者・三遊亭圓朝は明治33年(1900)のこの日・8月11日の早朝に進行性麻痺のため満61歳で息をひきとりました。

 隠れ切支丹ではありませんが、落語信奉者諸氏は8月11日を「圓朝忌」として、この日を落語三昧に過ごされてはいかが。遠出をして大汗をかくことなんかありませんよ。

 それにしても冷房などない明治の昔、大圓朝も病に加えて暑さのために、一年でいちばん暑いこの時期を耐えることができなかったのでしょう。

 六代目三遊亭圓生師匠が幼くして圓朝7回忌の法要に参列した記憶談が自伝「寄席育ち」に載っています。法要を1か月繰り上げて7月11日に営んだのは暑さのピークを避けたためでしょうが、それでも圓朝より年長の高弟・四代目三遊亭圓橘は法要の最中に倒れて師匠のあとを追っています。



※次回、第五十三回は8月中旬頃に更新いたします。

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。