落語 みちの駅

第四十九回 二ツ目の名高座
 7月5日(火)13時30分から東京・浜離宮朝日ホール(小)にて第42回朝日いつかは名人会。いつものように前座1席、二ツ目2人各1席、真打1席。仲入り後に二ツ目2人VS真打の「取って置きトーク」コーナー約20分。

 前座は桃月庵ひしもち「元犬」、二ツ目はまず春風亭正太郎(正朝門下)「千両みかん」、三遊亭歌太郎(歌武蔵門下)「磯のあわび」、真打桃月庵白酒「臆病源兵衛」。トークコーナーでは出演者3人そろって一番(総領)弟子だといった話題も出ました。

「千両みかん」と「臆病源兵衛」は夏ならではの演目ですが、ともにそうポピュラーなものではありません。「千両みかん」はようやく知られるようになりましたが、かつて(昭和40年頃)までは一部の演者の特別なネタでした。

「磯のあわび」も同様です。吉原の知識がないとよくわからない噺のように言われていたこともありました。

 そんな3席なのに客席は充分堪能していたように思います。妙にウケを狙わず、噺の筋を崩さず、ただし噺にさまざまな補強を施して取り組めば特殊な演目にも新たな生命が宿る。それを実感できたのはうれしいことでした。

 落語を聴き初めて60年を超えましたが、二ツ目の水準は昔とは比較にならないほど向上していると思います。頼もしいことです。

 二つ目の水準は――、と限定する言い方をしたのは、二ツ目全体がボトムアップすれば真打も上昇するというものでもないからです。

 優秀な二ツ目が真打10年で低迷ゾーンを浮遊することがよくあるので手放しでバラ色の未来は語れないと思うからです。

 どうしてそうなるのか、はままた別の機会に。一朝一夕に言えることではありませんから。

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。