落語 みちの駅

第四十七回 第160回朝日名人会
 6月18日PM2:00から第160回朝日名人会。柳家喬の字「夏泥」・柳家小さん「青菜」・五街道雲助「汲みたて」。仲入り後に柳家三三「のめる」・柳家さん喬「浜野矩随」。長屋中心の噺2席が続き、ただし2席目は幕あきが御屋敷の場で噺の格もだいぶ上。いわゆる仲トリが珍しい音曲噺の大ネタで、くいつきが軽快な、ただし楷書の運びを要する小粒でヒリリと辛い名品、そしてトリは釈ダネの人情噺。

 ネタの構成はすこぶるうまくいったと自負しております。近頃、構成が乱雑あるいは平板な催しが多くあって演者も客席も随分損をしているように思います。どんな名曲も名演奏も、楽章の並びをアトランダムに崩しては台無し。料理のコースも同様でしょう。

 この日の演者のみなさんはその立場と状況を完璧にわきまえて隙のない、しかしゆったりくつろいで楽しめる3時間を築いてくれました。本当にうれしく、ありがたいことです。どれもがCD化したくなる出来栄えでした。

 と、こんな手前味噌を述べるのは本来慎むべき立場の私ですが、当今の御時世ですから、たまには照れずに本音を吐くのも可なるべし――、と開き直るのは高齢者の“先の無さ”ゆえかとお笑い下さいまし。

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。