落語 みちの駅

第四十五回 志ん朝さん詣り
 6月8日昼、東京メトロ江戸川橋駅から徒歩数分の還國寺に眠る古今亭志ん朝さんを訪れ、CD12枚組アルバム「志ん朝 東宝」の完成を報告しました。

 発売からすでに2か月たっているのですが、関係者の顔がようやく揃って――、と十八番だった「今戸の狐」の一節を引用させていただきます。東宝ミュージック、ソニー・ミュージックダイレクトの面々が墓前に合掌をしました。

 こうした折節に墓参をする慣習があるというわけではありませんが、2008年以降のTBS落語研究会DVDアルバムが完成するたびに、TBS、ソニー・ミュージックダイレクトの関係者が墓参するようになって、それが今回も引き継がれた次第です。

 これまで志ん朝さんのほか、六代目三遊亭圓生、五代目柳家小さんなど各師のもとへうかがいました。

 志ん生、志ん朝二代の墓石としては小ぢんまりしていますが、それがいかにも江戸東京人らしいたたずまいです。江戸っ子は慎ましい墓石を好み、巨大な墓を見ると野暮だと眉をひそめ、安い地面で育ったやつらは畑の成り物じゃないが、大きくすりゃアいいと思ってやがる、と負け惜しみ半分に混ぜっ返したものでした。

 志ん朝さんの没後、お墓にはいつも花が供えられています。音羽山の裾のなだらかな傾斜地のため境内には湧水があって、それを汲んで墓石を潤すのもまた、心やすらぐひとときです。

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。