落語 みちの駅

第四十四回 桂歌丸「塩原多助」続編CD
 5月21日、第159回朝日名人会で桂歌丸さんは圓朝作「塩原多助一代記・多助の出世」を50分近く熱演、その情熱に客席から惜しみない拍手が贈られました。「痩身鶴の如し」の形容がぴったりのこの人のどこにこんなエネルギーが潜んでいるのかと思います。79歳という年齢だからなおさらです。

「笑点」の司会降板、新司会者への注目などなどが重なって5月下旬は来る日も来る日も歌丸DAYSの感がありました。80歳間近の人としては稀なる現象だったと言っていいでしょう。

 5月31日には歌丸さんに文部科学大臣賞が贈られました。ことし初夏の歌丸フィーバーの、これがいわば総仕上げ、オカミも歌丸さんのパワーと活躍を認めざるを得なかったのでしょう。(もっと世間周知のご褒美には定員があるらしく――ってのもオカミらしいことですけどね)

 歌丸版「塩原多助」は昨年の「青馬(あお)の別れ」と今年のこの「多助の出世」とで完結です。原作には数倍の長さがありますが、集約すればこの2席というのが、この噺を現在未来に生かす至上の脚色でしょう。

 数年がかりで超大作を整理、再構築した歌丸さんのエネルギー、意欲、そして頭脳の冴えに拍手したいと思います。老木(おいき)の枝にも花の紅(くれない)。古来から日本の芸能が理想とし、しかし滅多にみることのかなわない至宝の境地だと申し上げておきます。

 桂歌丸「塩原多助一代記・多助の出世」のCDは8月24日発売の予定です。

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。