落語 みちの駅

第二十八回 第40回朝日いつかは名人会
 1月28日(木)PM13:30 から浜離宮朝日ホールで第40回朝日いつかは名人会。桂三木男、春風亭朝也、柳家花緑が出演。前座は花緑門下の柳家圭花。

 客席は満員でした。この会は二ツ目精鋭の競演が中心で、それを人気真打がサポートするスタイル。仲入り後には二ツ目2人から真打へのバトンタッチをかねて、色物代わりの二ツ目・真打のトークコーナーがあります。

 発足から10年近く夜の公演でしたが、朝日新聞社近くの夜景は数寄屋橋のマリオン界隈とは比較にならないほど色気がなく、遊び心に水をぶっかけます。クラシック音楽や前衛的なジャンルならともかく、落語には少し居心地が良くない環境。

 昨年から平日昼に切り替えてみたところ、夜にまさる大勢のお客様が安定的に来てくださるようになりました。この分なら、今年後半以降は公演回数を増やせるのでは、と期待しているところです。

 芝居は昼、寄席は夜という住み分けがあったのは江戸の昔です。それでも昭和40年代までは日本は働き蜂の国、人形町末広も池袋演芸場も昼は休席でした。それが少しずつ変化して昭和50年代終盤には昼夜が互角になったと記憶しています。そして今や昼の時代。

 浜離宮朝日ホールは地下鉄大江戸線・築地市場駅が目の前で、昼間はその場外市場で食べたり買ったりの人波が絶えません。その人たちがことごとく落語を聴きに来るとは思えませんが、日時の限定はあっても、しっかりしたタウンが背景にあることは、興行の第一にして最終的な条件でしょう。

 さて当日の演目は圭花「一目上がり」、三木男「三方一両損」、朝也「黄金餅」、花緑「試し酒」。いずれも一筋縄ではいかない、演者の年功なりになかなかハードルの高い噺ばかり。「一目あがり」がきっちり楷書で演じられたことも収穫でしたが、三木男さんに「三木助」のDNAを感じさせる江戸弁の妙味が備わってきたこと、朝也さんが“道中付け”にのみ力を入れることなくしっかりと噺をこなしていたことが頼もしく思えました。

 花緑さんの「試し酒」も5代目小さんに忠実に演じながら、3人の登場人物がすべて花緑風になっていたことに感心しました。王道を行くとは、まさにこういうことでしょう。

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。