落語 みちの駅

第二十六回 本年最初の朝日名人会
 1月16日PM2時から第156回朝日名人会。前座は金原亭駒六さん「元犬」。二ツ目入船亭小辰さん「一目上がり」。柳家三之助さん「甲府い」。春風亭一朝さん「淀五郎」。仲入り後は柳家花緑さん「初天神」。トリ三遊亭圓楽さん「明烏」。5時15分終演。

 寄席が二之席の後半戦に入った日付けのため多くの演者があわただしく入り、また出かけて行って、いつものようにのんびり楽屋でくつろぐ風情がありません。師匠走るの意味合いでは、噺家は正月が師走ということでしょう。

 正月らしいネタは「一目上がり」と「初天神」だけ。あまり正月気分に寄りかかると会全体のトーンが浮き気味になりますから考えものです。そこで人情噺系の、ただし重くも暗くもない「淀五郎」を入れてみました。会の前半はいかにも古典落語らしく聴かせる演者、後半は現代感覚型古典の人、とモード構成も意識的にしたつもりです。

 実は年末いっぱいチケットの売れ行きにもうひとつ勢いがなかったのですが、年明けからジワジワとコンスタントにはけて、当日は満員の盛況になりました。毎度のことですが、年末年始は人の心理や行動に一種の空白が生じるらしく、そのあたりをうまくくすぐれば、逆に望外の成功もありということでしょう。

「甲府い」の三之助さんがこの噺を貫くテーマ「縁」をマクラで述べる際に自分と朝日名人会との「縁」から話し始めました。自然で、しかもここでだけ可能なマクラです。「マクラ賞」があれば進呈したいくらい。

 一九九九年二月に朝日名人会がスタートしたときの前座第一号が古今亭きょう助――現・古今亭志ん丸さんと柳家小ざる――現・三之助さんだったのです。もう17年も前の話になりました。

 第156回のこの日は客席に男の子がいて、花緑さんの「初天神」でその一声の笑いが隅なく響き渡り、会場は和やかな雰囲気に包まれました。

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。