落語 みちの駅

第二十三回 第155回朝日名人会
 12月19日土曜日に第155回朝日名人会を開催しました。いつも通りPM2時の開演で日差したっぷりの晴天でしたが、遅ればせの寒波到来でビル風のつめたい一日でした。

 前座・春風亭朝太郎さんは「平林」。前座噺への取り組み方をわきまえた、しかも軽やかに運ぶ高座で、まずはこの日の流れのベースを整えてくれました。

 と、あえて報告するのは、近頃邪魔に感じられる前座を聞かされたり、いきなり目当ての真打が跳び出てきたりする、レシピとマナーに異状アリのケースが多くなって、感心できないからです。

 オードブルのつくりがぞんざいだったり妙に個性的であっては続く料理の味わいを妨げ、メインディッシュの大盛り単品のみというのも下世話に過ぎて、上級品のたたずまいにほど遠くなる。聴き手の大方がそれを当然と思うようになってが落語は地に落ちることでしょう。

 二ツ目は来春真打に昇進する林家たけ平さんで、演目は大師匠・三平にゆかりの「金色夜叉」。前座の頃から素質に注目していた存在です。パワーがうるさくもいやみにもならない長所はますますです。一音ごとの発音の強弱が安定しているため、地噺がしっかりしたペースで前へ前へと進むのです。この調子ならば、まもなく有望真打の誕生となることでしょう。

 次の高座は柳亭市馬さんで「高砂や」。世阿弥の謡曲が題材という品位と婚礼噺のめでたさがにじみ出る演者でないといけない噺ですからまさしく打ってつけ。「婚礼に御容赦のサゲまでやってくれました。仲入り前は柳家三三さん「魚屋本多」。十八番だけに期待にこたえる出来ばえ。聴き手の評判も上々。軍物語の講談調が不自然に浮き上がらないのはさすがでした。

 仲入り後は柳家小せんさん「弥次郎」。今夏に物故した9代目入船亭扇橋に習ったそうで、淡々とした運びが“嘘尽くし”を逆にクローズアップする手法。結構なできでしたが、前後の演目が派手なため、少し割りをくったかも。

 トリは五街道雲助さん「掛取萬歳」。狂歌、喧嘩、義太夫、芝居、萬歳の順。近頃大家風の押し出しが備わった演者の遊び心で楽しませてくれました。

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。