落語 みちの駅

第十一回 第152回朝日名人会他雑感
 9月19日(土)、第152回朝日名人会。春雨や雷太「湯屋番」桂ひな太郎「幾代餅」入船亭扇遊「三井の大黒」三遊亭萬窓「佐々木政談」立川志の輔「死神」。

志の輔さん人気でチケットは二か月前に完売していた。志の輔流「死神」がここの高座にかかったのは初めて。堂々の出来栄えだったが、萬窓、ひな太郎、扇遊各師もよくウケていて、アンケートでは雷太君も含めて具体的に名をあげてほめられていた。

 とくに「三井の大黒」は珍しさもあって好評だった。左甚五郎ものは今、「竹の水仙」と「ねずみ」が栄えて、昔トップの「三井の大黒」への陽当たりがひどく悪くなっている。

「三井」はストーリーが穏やかなので初心層のファンにははまりにくいのだろうが、こういう噺でしっかり客席をつかんでこそ実力ある演者と言えるわけで、扇遊さんは亡師・扇橋に勝るとも劣らない成果をあげた。

 三代目桂三木助の「三井」を一度ならず聴いた身として世辞なしにそう思う。

 演目にせよ演者にせよ、とかく評価というものは偏りがち。それに乗って仕事をするのは楽な話なのだが、それでは古手の私が近々あの世で昭和の名人諸師に合わせる顔がないので、せいぜい穴場探しにも努めるつもりだ。

 秋の五連休で落語家が地方仕事に散ったようで少し連絡が途絶えがちになった。おかげで12月19日の第155回朝日名人会の仕込みが遅れ気味だったが、9月25日に柳家三三さんと電話でゆっくり話すことができた。仲入り前の出番で「魚屋本多」に決まる。

 トリの五街道雲助さんはすでに「掛取万才」、他に柳亭市馬さんの「高砂や」が決まっているので、来週早々に林家たけ平さん、柳家小せんさんの演目を決めるべく連絡をとった。

 9月28日(月)には落語研究会があり、その前に10,11月放送分の解説を収録するため準備中。柳家小満ん「品川心中」五街道雲助「木乃伊取り」の2席の放送解説をすることになっている。

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。