落語 みちの駅

第八回 秋の訪れとともに。
 東京だけでもないのだろうが、だいぶ早めに秋風が立った。本年も残り四カ月を切ったので、少し先のこともまとめて整理しておこうか。

 圓生37回忌の法要は公にはなかったが、祥月命日9月3日に圓生一門両派が一堂に会して追善の会を催したのはとても結構なこと。じつは両派に分かれたあとも、(7回忌だったか)両派合同で追善落語会を盛大に行ったことがあって、5代目圓楽、当代圓窓さんなど直弟子一同が一席ずつ演じたことがあった。会場は霞ヶ関の旧イイノホール。

 だから今回の“雪どけ”もずっと側面から眺めてきた者としては何をいまさらの感があるし、その後の“ねじれ”が何であったかと問い詰めてみたくもなるが、しょせん「芸人子供」の世界と達観して陰ながらおめでとうと申し上げるのみだ。

 今月から年末にかけてCD「朝日名人会」ライヴシリーズを切れ目なく出していく。9月はシリーズ106・桂歌丸14で「塩原多助一代記・あお(青馬)の別れ」。歌丸さん今年初演の課題演目で、1961年に6代目三遊亭圓生が初演した時の録音を参考にまとめられている。皮肉なことだが、“圓生の継承”の実績はこの四半世紀、いつも歌丸さんがトップの席をしめているのではないか。まずは渾身の大熱演。

 10月はシリーズ107・柳亭市馬6「妾馬(めかうま)/廿四孝(にじゅうしこう)」。とくに「妾馬」に大器ますます本領発揮の感が深い。近年の落語はいささか個性偏重と私論過多に陥っているが、大物は堂々の陣を張って小細工に耽らない。大名登場の噺のベースはかくあるべしと思う。

 11月にはシリーズ108・金原亭馬生8「井戸の茶碗/真田小僧」。古今亭・金原亭の御家芸で近年は他門でもよく演じられている「井戸の茶碗」には金額の配分法などに少し不自然があったが、今回はそれが見事に改善されている。その詳細と12月の柳家花緑4、五街道雲助10についてはまた近いうちに――。

著者紹介


京須偕充(きょうす ともみつ)

1942年東京・神田生まれ。
慶應義塾大学卒業。
ソニーミュージック(旧CBSソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の「圓生百席」、三代目古今亭志ん朝、柳家小三治のライブシリーズなどの名録音で広く知られる。
少年時代からの寄席通い、戦後落語の黄金期の同時代体験、レコーディングでの経験などをもとに落語に関する多くの著作がある。
おもな著書に『古典落語CDの名盤』(光文社新書)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『圓生の録音室』(ちくま文庫)、『落語の聴き熟し』(弘文出版)、『落語家 昭和の名人くらべ』(文藝春秋)、編書に『志ん朝の落語』(ちくま文庫)など。TBSテレビ「落語研究会」の解説のほか、「朝日名人会」などの落語会プロデュースも手掛けている。