TEXT:金澤 寿和 / Toshikazu Kanazawa
「いい曲は、音を聴いただけで景色が浮かんで来る」
「僕は瞼に情景が映るような曲を書きたいんです」
そう…、ポップ・ミュージックとヴィジュアル・イメージというのは、昔から不可分の関係にあった。感動的なシーンを目にした時、人は何かのメロディを思い浮かべ、それを口ずさんだりする。そしてまた、ミュージシャンが紡ぐ素晴らしい音楽に耳を傾けて、何かの情景を脳裏に映し出したりもする。
だが目や耳から仕入れる情報には、バランス感が重要。もしそれが少なければ、聴き手はイマジネーションを働かせることができない。逆に多過ぎれば、思考回路が停止してしまう。ミュージック・クリップの流行はまさに後者で、巷に溢れたヴィデオ・クリップはリスナーの創造力を減退させ、次世代ミュージシャンを画一化に追いやった。つまりヴィジュアルの進化は、音楽界にとって功罪相半ば。そして、ダウンロードで音源ファイルが飛び交うようになった今は、また新たな局面に立たされていると思う。
そんな中、音楽とヴィジュアルの理想型を示したオムニバス・シリーズが、70年代終盤に産み落とされていた。地球上の様々なシーンを剥ぎ取って、それをテーマに音楽を創造した"サウンド・イメージ・シリーズ"である。最初に誕生したのは、南太平洋の大自然をテーマにした『PACIFIC』、大都市の印象をパッケージした『NEW YORK』、歴史と文化の国ギリシャのイメージを描いた『エーゲ海(THE AEGEAN SEA)』の3枚。テーマに準じたアートワークの美しさが特筆モノで、シリーズ1作目の『PACIFIC』では、当時新進気鋭の写真家として脚光を浴びていた浅井慎平の作品がジャケットを飾った。
同時にこのシリーズは、当時の旬な音楽クリエイターの才能を、インストゥルメンタル中心のオムニバス形式で聴かせる冒険作でもあった。これらの作品が創られた78~79年というのは、まさにフュージョン・ミュージックが爆発的な人気を得た時期。シーンを主導したリー・リトナー&ジェントル・ソウツのダイレクト・ディスク盤が77年、ラリー・カールトンの名作『夜の彷徨』が78年のリリースだったし、スパイロ・ジャイラやチャック・マンジョーネ、ハーブ・アルパート、ジョー・サンプルらのヒットで、フュージョンが一気にイージー・リスニング化に向かったタイミングでもある。日本でも渡辺貞夫やネイティヴ・サンといっやジャズ・ベースの人たちがフュージョン作品を発表し、新しいジャズの形を示して注目を浴びた。ロック畑からリゾート向けのギター・インスト作を創り上げた高中正義が、後にオリコン・チャートに喰い込む
そうした元祖"サウンド・イメージ・シリーズ"の3作品に、同じタイミング、同じラインで制作した坂本龍一&カクトウギ・セッション『サマー・ナーヴス』を組み込んで再構成されたのが、83年にリリースされたオムニバス盤『ISLAND MUSIC』と『OFF SHORE』。その時、シリーズ続編として新たに作られたのが、『SEASIDE LOVERS』だった。そして今回は、その計5作品をオリジナル通りに復刻し、最新デジタル・マスタリングを施したうえで、Blu-Spec CD2の高音質盤仕様で再発となる。アナログ時代の"サウンド・イメージ・シリーズ"は、その頃の最新技術を結集したCBSソニー(当時)の"マスター・サウンド"シリーズの一貫として登場していた。そうした点からも、歴史を超えたソニーのスピリットが籠められた意義深いリイシューなのだ。